高級ミニバン市場を開拓したのはエルグランドだが、今やその座をアルファードに奪われてしまっている。日産からすると超絶悔しいはずだが、フルモデルチェンジされぬまま10年以上も経過。
だからこそ新型モデルに期待が集まるワケだが、一体エルグランドに足りないモノってなんなんだ!? 新型エルグランドはe-POWER化もウワサされているが、可能ならば価格を抑えたガソリンモデル。そして内装の高級感アップなどなど、挙げたらキリがないが、マジでどうしたらアルファードからその座を取り戻すことができるのか。
文:吉川賢一/写真:ベストカーWEB編集部
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エルグランドまさかの月販100台……アルファード大ヒットの裏で超厳しい戦いに
売れ筋グレードが税込470万、購入総額では500万円近くにもなるラージサイズミニバンながら売れに売れまくっているトヨタ アルファード。ラージサイズミニバン界を独占しシェアを拡大しつつある。
だが、もとはといえばこの市場は日産 初代エルグランドが開拓したもの。しかしいま、そのエルグランドには、かつて月販1万台を超える売り上げを誇った当時の勢いはなく、2022年9月の販売台数は、たったの100台。アルファードの爆売れぶりは、元祖ラージサイズミニバンであるエルグランドとしては、相当に悔しいはず。
しかし、既に12年目を越えた長寿モデルとなってしまっているものの、現行エルグランドの車室内の質感は高く、高級ラージミニバンとしては、アルファードに引けを取っていない。プロパイロット搭載はないものの、360度セーフティシステムやアラウンドビューモニターなど、最低限欲しい先進支援技術も備わるので、装備内容の面で、時代遅れのような印象はさほど感じられないのだ。
今はニーズ違う!? 「走りのミニバン」がヒット要因だと考えた日産
1997年にデビューした初代エルグランドは、「大人数が快適に移動できる空間」というコンセプトがヒットし、飛ぶように売れた。乗員や荷物をたっぷりと荷室に積み込んでも、トラクションがしっかりと得られるよう、後輪駆動をベースとし、リアにはマルチリンクサスペンションをおごるなど贅沢なつくりとなっていた。その点は、当時の評論家やクルマ好きからは「走りのミニバン」と評価され、大好評だった。
2002年に登場した2代目では、FRと4WDの2種類の駆動方式は踏襲しながら、リアにはV35スカイラインや初代フーガにも採用した高性能なマルチリンクサスを採用。リア入力時の乗心地とリアの安定性を高次元で両立し、「走り」へのこだわりをキープ。
ミニバン離れした俊敏な身のこなしで、2トンを超える大きなボディを、3.5リッターもしくは2.5リッターのV6エンジンでグイグイ引っ張っていた。
2世代に渡って「走りのミニバン」をウリにして成功したことで、エルグランドは、2010年登場の現行モデルも「走り」に拘ったモデルで登場。コストを低減のため、駆動方式をFFベースへと切り替え、3.5リッターV6エンジンは継続し、2.5リッターはV6エンジンから直4エンジンへと置き換えられた。
また、低重心化をするために、全高は2代目の1910mmから1815mmへと大きく下げられた。ただ、この全高を低くしたことが、その後のエルグランドの運命を大きく変えてしまうことになる。
違うよ日産……求めているのは走りではなく高い全高なのよ
アルファードにあってエルグランドにないもの、それは「視界の高さからくる優越感」だ。現行エルグランドは「走り」のために低床低重心を狙ったことで、「視界の高さ」を感じにくくなってしまった。
現行エルグランドのデビュー当時に販売されていた2代目アルファードは全高1915mm(3代目となる現行アルファードは1950mm)であるから、アルファードと比べると明らかに低い。
走りを好むミニバンユーザーからは否定的な意見が出るだろうが、コーナリングの安定性なんてのは、ドライバー以外の乗員にとっては優先度が低い。高速走行ではまっすぐふらつかず、乗り心地もクルマ酔いをしない範囲でふんわりと柔らかく走ってくれればいい。
そんなことよりも、迫力ある全高が欲しい。エルグランドは3代目も「走りが良いミニバン」として評価はされたが、ヒットすることはできなかった。
2019年にはマイナーチェンジを実施したが、顔面は力強くなっても、最も欲しい全高が足りていない。結果として進化するアルファードに追従するどころか、冒頭で紹介した通り月販100台という無残な状況となってしまった。
エルグランドを復権させるには、何よりも、2代目エルグランド並みの全高1910mm以上の背高なプロポーションが必須であろう。「走りへの強いこだわり」を打ち出したコンセプト自体を極めたいのならば、「背高ミニバン」で、ナンバーワンの走りを実現するべき。それこそが「技術の日産」としての腕の見せ所だ。
マイチェンの際、テレビCMで日産はまたしても「走りのミニバン」をアピールするかのような映像をつくった。
しかし、当時すでに、日産としても、ミニバンに走りがそれほど求められていないのはわかっていたはず。アルファードとの差別化という意味では、それしかできなかったのかもしれないが、顧客の需要にまっすぐに答えないことは、顧客を無視した行為であり、ヒットするはずもない。
新型エルグランド全車e-POWERはダメ!! アルファードの売れ線はガソリンなのだから
全高改良の他にも、新型エルグランドに期待したいポイントはいくつかある。
そのひとつが、新型エクストレイルで新たに登場したVCターボe-POWERのシステムの搭載だ。現行エルグランドは燃費がよくなく、3.5L V6 NAエンジンの燃費は8.7km/L(WLTCモード)、2.5L直4 NAエンジンは10.0km/Lだ。
新型エクストレイルのVCターボe-POWERは、圧縮比をバリアブルに可変できるので、燃費重視に振りながらも、ときにはパフォーマンスを絞り出すことも可能なはず。
新型エクストレイルは、排気量1.5Lの直列3気筒VCターボエンジンだが(エンジン単体の出力は、106kW/250Nm)、北米アルティマの2.0LクラスのVCターボ、という手もある。どちらも上級モデル用のユニットであるため、廉価な2.5Lのガソリン仕様(もしくはマイルドハイブリッド)は残してほしい。
ただ、ラージサイズミニバンのユーザーは、「燃費性能の高さ」よりも、「見栄えの良さ」や「価格」を重視する方が多い。例えば、アルファードで最人気のグレードは、エアロバンパーや18インチアルミホイールが付いた2.5LのS_Cパッケージだ。
価格は税込468万円、アルファードの価格帯394~775万円)の中では安く、リーズナブルな仕様だ。ただし、燃費は10.6km/Lと決して良いわけではない。そこを見誤ってしまうと、また現行エルグランドのような悲劇を繰り返すことになりかねない。
電動化を推進する日産は、ノートやエクストレイルで、ガソリン仕様を廃止するという大英断をかました(新型セレナでは販売サイドの声に負けたのか、ガソリン仕様をつくると聞くが)。環境性能の高さを示す戦略も重要だが、顧客の需要にこたえる商品企画も必要だ。
新型エルグランド復権するなら450万円以内で!! 内装はアリア級を求む
全高1910mm以上を確保しパワートレインも見直したうえで、内装をアリア並のクオリティまで引き上げること。売れ筋グレードを、アルファードと同様に、税込450万円以内で収めることができれば、エルグランドの復権も夢ではないと思う。
新型フェアレディZの型式が「Z34」のままだった(正確には「RZ34」)ことが話題となったが、同じ型式でも、あれほど見栄えを変えたことで世界的に話題となりアピールもできる。
新型エルグランドがあるならば、プラットフォームはそのままの「E52」の型式のままでよいので、「背丈とデザイン、そしてパワートレイン」をガラッと変えるチャレンジをしてほしい。
アルファードの人気は、トヨタ販売の圧倒的な売る力と、数年後の中古アルファードの高査定(海外輸出の需要がとても高い)も後押ししている。エルグランドの復権には、販売面での工夫も必要だ。
一度落ちてしまったブランドを復活させることは一筋縄ではいかないだろうが、現エルグランドオーナーが買い変えたくなるほどに変化すれば、再び息を吹き返すことは不可能ではない。エルグランドの復権で、ぜひ日産の真価を見せてほしい。
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