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 3年ぶりに開催された日本GPは、天候がライダーを翻弄したレースウイークだった。金曜日は曇り、雨天の土曜日は午後に雨脚が激しくなってフリー走行3回目がキャンセルとなり、予選もディレイ。スケジュールから約1時間遅れで、ウエットコンディションの中で予選が行われた。だが、決勝日の天候は快晴。気持ちのよい秋晴れに恵まれた。
 
 この週末、ライダーが決勝レースまでにドライコンディションで走行できたのは金曜日と日曜日のウオームアップ・セッションのみ。今年の日本GPは機材輸送の関係で金曜日午前中にフリー走行が行われず、午後に時間を75分に拡大してフリー走行1回目が行われた。ただ、金曜日は前述のように曇天だったために路面温度が上がらず、28度。対して日曜日は路面温度が38度まで上昇した。3年ぶりの開催、そしてフリー走行から変わったコンディションなど、ライダーにとっては難しいタイヤ選択となった。
 
 決勝レースでは、フロントタイヤについては全ライダーがハードを選択。ただ、リヤタイヤについてはソフト、ミディアム、ハードで選択が分かれた。ミシュランの情報によれば、決勝レーススタート前に25人のライダー中、13人のライダーがリヤタイヤを変更している。ミラーもそのうちの一人だった。ミラーは当初、ミディアムをチョイスしていたが、ハードに変更した。2位を獲得したブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)も同様で、表彰台を獲得したライダーのうち、唯一3位のホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)のみがリヤにミディアムを履いた。
 
 レースでは7番グリッドスタートのミラーが1周目にポールポジションスタートのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、2周目に3番グリッドからスタートしたビンダー、3周目にマルティン、それぞれを全て11コーナーでオーバーテイクしてトップに浮上。9周目にはファステストラップのレコードを更新する1分45秒198を記録し、安定したペースを刻んで後方との差を広げ、優勝を飾った。これはミラーにとって今季初優勝だった。

「正直言って、思ったよりもうまくいったよ。でも僕は、この週末はずっと強さを感じていた。昨日、予選の後はちょっとがっかりしていたけどね。ウエットでもっといい走りができると思っていたんだけど、7番手だった。やっかいだなとは思ったけど、そこからいけるだろうとは思っていた。金曜日のセッションから自分のペースはわかっていたんだ」
 
「(レース中は)振り返らなかった。最後にバトルにならなくてよかったよ。残り10周くらいで、かなりショートシフトしなければならなかった。ほかのライダーたちもショートシフトをして、ストレートでマネジメントしようとしていたんじゃないかな。このサーキットはストップ・スタートが多く300馬力近いMotoGPマシンがずっとタイヤに負担をかけるので、タイヤのセンターがかなり痛む。だけど序盤から最後までそれをなんとかうまくコントロールできた。素晴らしい日だったし、素晴らしいレースだった……。これ以上言うことはないよ」

 決勝レース後の会見の中で、ミラーはそう喜びを語った。そしてまた、タイヤ選択については「ファビオ(・クアルタラロ)やアレイシ(・エスパルガロ)などが(リヤに)ミディアムを選んでいた(※実際にはアレイシ・エスパルガロはウオームアップラップのあとピットインして、リヤにソフトを履いたマシンに乗り替えている)。僕は金曜日にミディアムでレースディスタンスを走り、そのデータなどがあった」と触れた。ミラーは金曜日の75分間のフリー走行1回目で最後のアタックで1番手タイムを記録した。このとき走った合計28周のうち22周はタイヤを変えることなく走っている。ただその22周の間履いていたタイヤは、前後ミディアムだった。
 
「(決勝レースのタイヤ選択は)難しい決断ではあったけど、ウオームアップで(ハードタイヤを)使ったときには比較的速く走れたんだ。それで、うまくいけばレースでちょっとよくなるかもしれないと思った」

■2位のビンダー「ジャックには脱帽」と称賛

 2位を獲得したビンダーはミラーの走りについて「今日のジャックは別次元だった。僕をパスすると、彼は本当に、3、4周で見えなくなってしまったよ」と言及した。「もう姿を見ることはないんだろうなと思った」と言うと、左隣に座るミラーがすかさず「僕がクラッシュしたら近づけただろうけどね!」と返し、「たぶんね!」とビンダーも笑う。それから「ジャックには脱帽だよ。信じられない走りだった。来年、彼がチームに加わるのは素晴らしいことだよね」と、未来のチームメイトを素直に称えていた。
 
 そのビンダーは序盤から3番手を走行し、最終ラップで前を走るマルティンをかわして2位を獲得している。ビンダーにとって開幕戦カタールGP以来の表彰台獲得だった。

 ビンダーの場合、ミラーとは異なり、金曜日のフリー走行1回目のみならず日曜日朝のウオームアップ・セッションでもリヤにハードタイヤを履いていなかった。つまり、決勝レースで初めてリヤにハードタイヤを選択して走ったことになる。

「今日はタフな日だった。レース序盤、リヤタイヤでどれだけプッシュできるのかを理解するのに、ちょっと苦労したよ。(今回のレースウイークで)ハードタイヤで走るのが初めてだったからだ。でも、ホルヘやジャックの後ろで走って、どこで僕たちが大きくタイムロスしてるのかよくわかったし、どこで強いのかもわかった。改善が必要なところ、自分のアドバンテージを生かすところを理解したんだ」

「レースが進むにつれ、よくなっていく感じがあった。だから、チームにすごく感謝したいんだ。(今週末)使っていなかったリヤのハードタイヤで行く自信をくれたから」

 レッドブル・KTM・ファクトリーレーシングとしても、この日本GPは好成績で締めくくったと言っていいだろう。ビンダーは2位、また、ミゲール・オリベイラも残り3周でマルク・マルケスにかわされたものの5位でレースを終えている。オリベイラは今日のビンダーについて「彼は僕よりセクター2がいい。そこでコンマ数秒の差をつけている。それから、僕は彼よりもコーナー立ち上がりでちょっとロスしている」と説明し、チームメイトを祝福していた。

 そして、ビンダーと2位争いを展開したマルティン。残り5周でマルティンとの差を1秒以内に詰めたビンダーは、前を走るマルティンを見て「彼は僕より柔らかいタイヤ(リヤにミディアム)だと思っていたし、ちょっとスピニングしているようだった」ととらえていた。そして実際のところ、マルティンも「残り14周で、ほとんど限界だった」と語っている。
 
「ブラッドとの差をキープしようとしていたけど、残り3周、2周あたりで追いついてきた。ちょっと残念だよ。2位の方がよかったからね。でも、バルセロナ(第9戦カタルーニャGP)以来となる表彰台に戻ってこられてうれしいよ」
 
 とはいえ、2021年にMotoGPクラスにステップアップしたマルティンにとっては、今回が最高峰クラスで初の日本GP。3位表彰台の結果は上出来と言っていいだろう。