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 ごく貴重な存在となって久しいながらも、昔はバスに乗ると運転席の長いシフトレバーに目が行ったものだ。バスのシフトレバーはどうしてあんなに長かったのだろうか? 過去から現在まで、シフトレバーと変速機構の移り変わりを簡単に追ってみよう。

文:中山修一
写真:バスマガジン編集部


長くないとダメだった?

 昔のバスによく使われていた、すごく長いシフトレバー。「棒シフト」や「ロッドシフト」のような通称がある。箱型バスの多くが後ろにエンジンを積んでおり、変速装置もまた後部に付いていることに事情がありそうだ。

 棒シフトのバスでは、シフトレバーから変速装置までを、車体長いっぱいに迫るほどの長いジョイントで繋げて、入力〜ギヤの切り替え全てのプロセスを物理的に(人力で)行う構造が一般的だった。

 そのような構造の場合、ギヤチェンジをするには非常に大きな力が必要となるが、シフトレバーを長くすればテコの原理が働き、片腕の力だけで操作できるようになる、というわけだ。
 その他、シフトレバーが長かった理由に…

・レバーを長くしないと手が届かない
・構造が比較的シンプルでコストが抑えられる
・ボディなどの架装がしやすい
・変速時の微妙な位置決めがしやすい

……などが挙げられる。バスのドライビングポジションを考えると、単純に「手が届かない」のが一番の理由かもしれない。

1990年式UD+富士ボディ6Eの運転席。床から長いシフトレバーが伸びている

人力から電気へ

 バスを象徴するパーツの一つであった長いシフトレバーであるが、1980年代になると、短いシフトレバーの付いたバスが登場し始める。「フィンガーシフト」と呼ばれる変速方式で、三菱ふそうが1983年11月にリリースした路線車に初めて搭載された。

 フィンガーシフトとは、シフトレバーと変速装置を直接繋げるのではなく、運転席のシフトレバーの部分を電気スイッチに置き換えて、途中の変速プロセスを電気的に処理するものだ。
 棒シフトと仕組みを比較した場合…

【棒シフト】
シフトレバー → 機械式ジョイント → 変速装置

【フィンガーシフト】
シフトレバー → 電気ケーブル → 電子制御装置 → 変速装置
……ざっくりとではあるが、上記のような違いがある。

 例えばシフトレバーを2速にセットした場合「2速」の電気信号が後部の電子制御装置に送られ、受けた信号に応じて自動的に空気圧または油圧で実際のギヤチェンジを行う。

 シフトレバーはタダのスイッチであるため、その名の通り指の力だけでギヤチェンジを行えるのが、フィンガーシフトの特徴で最大のメリットとなっている。

 フィンガーシフトを搭載したバス車両がマニュアル車であるのは棒シフトと変わらず、ちゃんとクラッチは付いている。

大型2階建バス・三菱ふそうエアロキングのフィンガーシフトMT

バスもいまではMTは希少になった?

 普通のクルマでMTと言えば、もはや情熱とこだわりの結晶となって久しい。バスでは現在もフィンガーシフトを搭載した車両が全国各地で活躍しているが、最近の車種はどうなっているのだろう?

 各メーカーのカタログを開いてみると、標準装備されているトランスミッションはATまたははAMTが主流で、中型・大型バスに至ってはマニュアルの設定自体が極めて少ない。

 AT/AMTのバス車両のシフトレバーも、フィンガーシフトのように短いロッドタイプが広く使われているほか、ボタン式やダイヤル式を採用している車種もある。

 レバーではないボタンやダイヤルとなると、運転席回りの景色も大きく変わると言えそうだ。一部マイクロバスなど、ドライビングポジションを考慮して、ロッドタイプで切り替え操作がし易いようノブの部分を長く取っているバス車両も見られる。

 今後導入されるであろう新しいバス車両は路線車や高速・貸切車の大半がATまたはAMTで、フィンガーシフトは絶滅危惧種になる可能性が極めて高い。普通乗用車のみならず、今ではバスもMT車は貴重な存在になりつつあるわけだ。

 普段なら大して気にしないかもしれないが、路線バスに乗った際、運転席のシフトレバーにちょっと注目してみて、ATかMTか、またAMTかをチェックするのも興味深い。

 ちなみにギヤが切り替わった時に「プシュッ」と音が鳴るのはフィンガーシフトMT車だ。

投稿 乗るたび「長っ!」って思ったあの頃…… バスのシフトレバーのヒミツ自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。