各地で運行されているコミュニティバスを活用すると、予想だにしないルートを辿って意外な場所に出られることがある。ちょっと乗ってホントに行けるか確かめてみよう。
文・写真:中山修一
根羽村・西部コミュニティバス
長野県下伊那郡根羽村……同県最西南端に位置する、愛知県と背中合わせになった人口855人の村だ。山間部の緑豊かで落ち着いた景観が楽しめるほか、とうもろこし、椎茸、イワナとヤマメ、五平餅、乳製品など特産品も揃っている。
ここ根羽村から、隣の平谷村を越えて阿智村までを結ぶ「西部コミュニティバス」が運行されている。そのバスを利用して乗り換えを1回行うと、JR飯田線の飯田駅まで到達できるのだ。
出発点となる根羽村には、愛知県と長野県を跨いで運行する「どんぐりバス」根羽線でアクセスする。(詳しくはコチラ)
さらに経路を遡ると、名鉄名古屋本線の東岡崎駅か、名鉄三河線の猿投駅が今回の乗りバス旅への玄関口となる。
JR中央本線と東海道本線または名鉄本線・飯田線を地図上でなぞって三角形で囲めるエリアの、ちょうど底辺と頂点を結ぶ中線あたりを突っ切る形で飯田方面へ進んでいく香ばしいルートだ。
紙一重でクリアするスリルのルート!?
今回は平日よりもバスが繋がりやすい日曜日に現地を訪れた。どんぐりバス根羽線で県境を越えて12:46に根羽に到着。休日ダイヤでは1時間54分後の14:40に出発する西部コミュニティバスに接続できることになっている。
ただし西部コミュニティバスは平日1日5便に対して休日3便と少なく、14:40発が最終になってしまうので、繋がりやすさと引き換えに、突然の体調不良や乗り逃しには対処できなくなる。紙一重的な状況はリスクでありスリルにも感じる。
根羽バス停に降り立って、西部コミュニティバスのバス停標識に目をやると、最も肝心な時刻表の部分が欠落していた。現地で発車時刻が確認できないのだ。
「どうせスマホがあるからいいでしょ?」という考え方もなくはないが、現地の物理的掲示は確実な証拠となるため、画面で見るのに対してかなりの安心感が得られるものだ。
乗り換え案内アプリでも出てくる路線ながら、ほんとにバス走ってるのか?と、突如猛烈な不安にかられ、時刻表が無いバス停標識を見た時は正直相当焦った。
いきなり詰みかける
バスの時刻まで村内を散策して過ごした。根羽バス停は西部コミュニティバスの始点で、バス停の向かい側に車庫と事務所があるため、そう焦らず待っていれば出発時刻の数分前にバスが来るはずだ。
14:40ちょうどにバスが車庫から出てきた。2019年にマイナーチェンジした、三菱ふそうローザのロングボディ車だ。
始発なら利用者の有無に関係なくバス停に一旦停車して、ドアを開けてしばらく待つのが全国的にほぼ共通な路線バスのお作法。
そう思ってバス停すぐそばの停車スペース手前で待機していたところ……ローザのエンジンが唸りを上げた。加速だ、明らかに加速だ!
始点からいきなり通過というのは経験したことも見たこともない!! こいつを逃すと本当に詰んでしまうのだ。勘弁してください、慌てて手を降り停めてもらった。
この路線、走行距離にすると30km以上走るのだが、コミュニティバスということで運賃は1回200円と超激安。先払いでも後払いでも良いとは運転手さんの弁だ。
路線バスに付き物のアレがない!?
バスは国道153号線を道なりに進む。乗車してすぐ気づいたのが、バス停をいくつか通過しているのは確かな半面、車内アナウンスが流れないのだ。
終点まで乗り通しなら無くても構わないだろうが、次のバスへ乗り継ぐには途中の停留所で下車する必要がある。土地勘を持っていないと走行地点の目安になるアナウンスが無いのは試練だ。とんでもないツワモノを相手にしてしまったか……。
外の景色を眺めても何処を走っているのか見当もつかない。時間とバス停の標識を凝視しつつ、手持ちのスマホのマップを開いて現在位置を確認する作戦を採った。
バス好きにはオイシイ!? 峠越え
根羽村の散策中、山深い場所の割に車両の通行量が結構多い印象を受けた。普通乗用車だけでなくツーリングのグループを何組も見かけた。
乗車してみて一般車が多い理由をなんとなく理解した。国道153号線の、西部コミュニティバスが通る区間は峠道が続く絶好のドライブコースになっているのだ。
高低差で600〜700mと起伏に富み、最も標高のある治部坂峠では標高1180mを超える。所々に姿を現す、遠くに連なる山々を眺めながらクルマで進むのは大変気分の良いものだ。
最後の峠を越えて麓に近づくと、国道を一旦外れて集落へ続く道へと入る。この日は地元の利用者が1人乗車した。
車内アナウンスは全く流れないまま、車窓からの景色がだんだん開けてきた。飯田方面に乗り継ぐ場合、乗り換えアプリでは「伍和(ごか)入口」で下車するよう提案される。一方の西部コミュニティバス公式PDFは「こまんば」を推奨している。
どちらで降りても結果は同じらしい。しばらくすると車窓に西部コミュニティバス用のほか、乗り継ぎ先である信南交通のバス停標識が見えてきた。そろそろ降りても大丈夫だろう、伍和入口で降りてみることにした。
下車する際は車内の押しボタンを押せば、次のバス停で停まってくれる。国道153号線の隣にある、伊那街道沿いの風情あふれる街並みの中にあった。ここで下車し、所要時間44分の西武コミュニティバス乗車を完了した。
図らずも、またまた崖っぷち!!
信南交通の飯田駅行きバスが来るまで約35分。伍和入口のバス停が日陰にあり寒かったせいもあるが、徒歩圏内のこまんばバス停まで歩いてみた。
こまんばバス停は、国道153号線沿いの和菓子屋さんのすぐそばに置かれていた。ベンチ付きの木造上家が建てられており、公式PDFでこの停留所を乗り継ぎポイントにしていたのは、設備面でより快適に待てるためだろう。
同バス停から500mほど先に、高速バスの中央道昼神温泉バス停がある。
西部コミュニティバスの方に注力したせいか、信南交通の飯田駅行バスもまた、乗ろうとしているのが日曜日の最終便であると現地の時刻表を見て初めて気付いた。
ここから飯田駅までは10kmちょっとあり、徒歩だと少々苦労する。もしバスに乗り遅れたらタクシーを利用するしか手立てがなくなるが、運賃計算アプリ準拠でタクシー料金は約4,420円かかるらしい。
どこまでもギリギリで一抹の不安を抱えながら待つことしばしば、青い車体の三菱ふそうエアロスターがやってきた。信南交通の飯田駅行きだ。これに乗ってしまえばミッションクリアも同然である。
乗車して25分ほど、すっかり日が傾いた16:25に目的地の飯田駅前に到着。後払い方式で運賃は現金のみの400円であった。
逃すと後がないギリギリコースを選んだことで、ずっと続いていた緊張感から、飯田駅バス停に降り立った途端、一気に肩の荷が下りたような気がした。
隠れた最安値!
名鉄の猿投駅を出発点にした場合、バス乗り継ぎで根羽村を経由すると総額1,800円で飯田駅まで抜けられる。
名古屋経由で高速バス利用時が3,480円、豊橋回りで飯田線に乗ると3,830円なので、大体半額くらいで行けるわけだ。
いずれも朝9:00〜9:30の間に猿投を出ると、高速バスが全行程最速3時間29分、飯田線が5時間43分。対する根羽経由は6時間55分と最も遅いが、コストの面ではアドバンテージが大きい。
西部コミュニティバスの利用難度が予想外に高く、乗りバス旅を越えてエクストリームスポーツの領域に掛かりそうであるが、行けないことはなかったので、普段と違う刺激を求めたいときには大きな価値を持ち得る行き方だ。
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