鉄道よりも安価で、なおかつ快適に移動できる公共交通手段のひとつが高速バスだ。
高速バスが誕生して既に50年以上、時代の流れと技術の進歩によって様々な工夫とサービスの向上が図られてきたが、所要時間に関して昭和と令和とで劇的な変化は見られるのだろうか。
文:中山修一
写真:中山修一/バスマガジン編集部
東名高速の目玉路線
1964年の名神高速道路全通以降、かねてから高速道路経由の長距離バスを計画していた当時の国鉄では、加減速と高速巡航能力に優れた専用設計のバス車両開発を各メーカーに依頼した。
その後1966年に国鉄バスの名神高速線が開業、1969年には東京〜名古屋間を結ぶ東名高速線の運行が開始された。
1975年当時の時刻表を参考にすると、東京〜名古屋間355.4kmの名古屋行き直通便が昼行1日20本に加え、夜行便が1本設定されていた。
速達タイプの「1便」に乗車した場合、8:00に東京駅を出発。途中16箇所の停留所に停車し、名古屋駅には13:36に到着。5時間36分のバス旅だ。
停車地が少し多い「109便」では10:30に東京駅を出発。30箇所の停留所に停車していき、終点の名古屋駅に16:25に到着する。所要時間も少し長い5時間55分となっている。
夜行タイプの「ドリーム7号」を利用すると、東京駅を23:20に出発。途中ノンストップで名古屋には6:00に到着する。
所要時間6時間40分、昼行より時間がかかったようだが、あまり早朝に着いても却って乗客に不都合が生じてしまう配慮だろう。
運賃はいずれも1,900円(夜行のみ+300円)。当時の最速新幹線「ひかり」の東京〜名古屋間の運賃総額が3,490円であったのと比べると、この時代から高速バスは時間を要する代わりに割安な乗り物だったと窺える。
昭和に勝るか?令和の同じ高速バス
対するのは1975年から半世紀近くが経過した現在の令和。東京〜名古屋間の高速バスは、1987年の国鉄民営化後に設立されたジェイアール東海バスによって運行が続けられている。
時刻表を見ると、東京〜名古屋間を結ぶ昼行の直通便が1日20本と、昔から変わっていないのが見て取れる。一方で夜行便は増えていて毎晩6本。うち2本は新木場駅が始発となっている。
現在の同高速バスで最も速いのがノンストップ直行の「新東名スーパーライナー」だ。これの1号を利用すると、7:30に東京駅八重洲南口を出発、足柄SAで休憩を挟み、12:39に名古屋駅新幹線口へと到着する。所要時間は5時間9分だ。
停車地の多い「超特急スーパーライナー」59号ではどうだろうか? こちらは東京駅を11:00に出発、25箇所の停留所を順次経由していき、名古屋に到着するのが17:16だ。所要時間にすると6時間16分となる。
夜行便のうち最も後発の「ドリームなごや」11号に乗車すると、23:59に東京駅を出発し、そのままノンストップで名古屋には6:38の到着。6時間39分の夜行バス旅だ。
運賃は運転時期や予約状況・シートの種類などによって異なり、昼行便の普通片道運賃で5,500〜6,140円、夜行便が4,500〜9,600円。新幹線「のぞみ」の東京〜名古屋間が片道総額11,300円なので、現在も依然高速バスは割安な乗り物である。
速くなった!!のもあるけれど…
以上を踏まえ、改めて東京〜名古屋間の所要時間を比較すると…
(1)速達便
1975:5時間36分/2022:5時間9分
(2)普通便
1975:5時間55分/2022:6時間16分
(3)夜行便
1975:6時間40分/2022:6時間39分
(参考)速達タイプの新幹線
1975:2時間1分/2022:1時間39分
速達便ではさすがに新東名経由とノンストップの効果が出ているようで、約半世紀で27分の短縮を実現している。一方で普通便は21分遅くなり、夜行便に関しては殆ど変わっていない。一概に速くなったとも表現し難い結果となった。
もっとも、いくらバス車両の加速性能や最高速度がアップできても、高速道路では新幹線のように速度を引き上げて運転するわけには行かないため、同じインフラを使う限り短縮しようにもさせようがない、と言えそうだ。
東名高速を走行するクルマの姿は変わりゆけど、高速バスのダイヤは50年以上前の開業時点で既に完成されていたのかもしれない。
投稿 どっちが速い? 昭和 vs. 令和 の高速バス対決が際どすぎる!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。