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 2022年10月13日、観光バスが富士山五合目の帰り道の下り坂で、ブレーキのフェード現象を起こし、停まりきれずに横転、27人が死傷する事故が起きました。

 これは車両重量の重い大型観光バスの事故でしたが、現代の普通車、軽自動車ではありえるのでしょうか? 

 例えば箱根ターンパイクの長い下り坂には、ブレーキがフェード現象によってブレーキが効かなくなった場合に備え、砂が盛られた緊急待避所が設けられています。

 担当も過去に箱根ターンパイクの下り坂で、何気なく、エンジンブレーキを使わずにフットブレーキだけを使って降りていったのですが、下りの終着点、料金所を過ぎて右の駐車場にクルマを停めた時、ブレーキパッドから焼け焦げた臭いがして少し白い煙が出ていたことを見てビビったことがあります。

 そこで、普通車や軽自動車のAT車、CVT車は、下り坂でどのような運転をすればブレーキがフェードしないのか、もしフェードしてしまった場合、どのように対処するのか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説します。

文/高根英幸
写真/Adobe Stock(トビラ写真=Jan Dzacovsky@Adobe Stock)

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■フェードとベーパーロックの違いと怖さ

あたりまえに使っていた、フットブレーキが効かない。そんな恐ろしい現象も起こりえる(deagreez@Adobe Stock)

 先日の富士山における観光バスの事故は、久々に自動車という乗り物の怖さという一面を見せつけられた、と感じた人も多いのではないだろうか。

 バスは大きくて重いからブレーキの負担も大きい。とはいえ乗用車たとえ軽自動車でも、同様の症状による危険は起こり得る。問題は「クルマも人も重力という強大な力には勝てない」ということだ。

 平坦な市街地、あるいは高速道路を走行している時には、アクセルを戻してちょっとブレーキを踏めば交差点の停止線でスムーズに停止することができる。平坦に思えても、実は緩やかに勾配が付いていることも多いのだが、街中での勾配はそれほど大きくはなく、距離も短いからブレーキの性能を意識することはない。

 だがこれが急勾配となり、それが長く続けばブレーキの重要性は格段に高まることになる。

 フットブレーキは、4輪の各ホイールに組み込まれたブレーキを作動させて減速、停止させるための装置で、重要保安部品として車検時には24ヵ月点検で点検整備が義務付けられている箇所だ。

 下り坂が長く続くと、クルマは重力に引っ張られてグングンと車速を上げていく。この時に車速の上昇を抑えるのがブレーキだ。ブレーキとはブレークから派生した言葉で可動部分を固定させたり、運動エネルギーを壊す、つまり運動エネルギーを熱に変換して昇華させる装置である。

 「熱に変換」と書いたが、それが大気に放出されるだけであれば車両側の問題は少ない。しかし実際には下り坂などで頻繁にブレーキを使い続けるとブレーキシステムに熱が蓄積されてしまい、それが制動力を低下させることになる。

 ブレーキの過熱による制動力低下は、フェードとベーパーロックという現象に大別することができる。どちらもブレーキの多様で起こる制動力の低下だが、原因と現象は少々異なる。

 フェードはブレーキパッドやブレーキシュー(ドラムブレーキの場合)が過熱により摩擦係数が低下して、ブレーキペダルを踏んでもタイヤが滑るように効きが甘くなってしまう現象だ。

 それに対してベーパーロックはブレーキフルード内の水分が高温により沸騰して、気泡がブレーキペダルの踏力を吸収してしまうことで、ブレーキが効かなくなってしまう現象。こちらは踏んでも効かないのではなく、踏みごたえがなくなってブレーキペダルが床まで踏み抜けてしまうものだ。

 踏んでも効かないと、踏んだら突き抜けたのでは感触が違うが、どちらもブレーキが効かないことに変わりはない。ただしベーパーロックはペダルを何度も踏み直すことで一時的に踏みごたえが改善されることもある。

 ブレーキが踏み抜けると慌ててしまうかもしれないが、落ち着いて何度か踏み直してみることを覚えておきたい。

ブレーキが甘くなるのがフェード現象。ブレーキが踏み抜けてしまうのがペーパーロック現象だ(Imaging L@Adobe Stock)

■ブレーキが効かなくなるのを防ぐにはどうすればいい?

ワンペダル走行も可能なアクア。長く続く下り坂ではBレンジでの減速走行となり、回生ブレーキによって駆動用バッテリーが満タンになると、バッテリー保護のためにエンジンで電気を消費する。それでも減速度が足りず、フットブレーキで速度調節する必要もあった

 先日の観光バス事故では、サイドブレーキも効かなかったという証言も見られたが、乗用車でもフットブレーキとサイドブレーキのブレーキは共用しているクルマが多く、フットブレーキがフェードしてしまうとサイドブレーキも効かなくなる。

 後輪もディスクブレーキの場合、サイドブレーキのためにドラムブレーキを組み込んでいるクルマはディスクブレーキがフェードしてもサイドブレーキが利くことになるが、サイドブレーキも兼用のドラムブレーキの車種の場合は、サイドブレーキも利かないのだ。

 そうした下り坂でのブレーキ過熱による制動力低下を防ぐには、まず一番重要な対策としてエンジンブレーキ、回生ブレーキを最大限利用することだ。

Bモードはブレーキモードのことで、回生が強くなるため、下り坂では活用すべき

 最大限とはエンジンがレッドゾーンに入りそうなほど回すのではなく、なるべくエンジンブレーキを使うという意味で、AT車(CVTも含む)の場合Dレンジ以外に前進用には3、2、1やBというモードがある。これらは変速比を低めに固定し、エンジンブレーキを強めに利かせることができるから、下り坂では積極的に使用するべきモードだ。

 EVやハイブリッドであってもブレーキの構造は同じで、車重が重いためブレーキの負担は意外と大きい。フットブレーキを使用してもモーターによる回生ブレーキを自動で制御しているが、こちらもセレクターをBに入れることで、回生ブレーキをより強力に効かせることができる。

 リーフ、ホンダe、日産のe-POWER搭載車はワンペダルドライブが可能で、自在に加減速できると同時に効率よく回生することもできる。ただしバッテリー残量によっては回生しない場合もあるので注意が必要だ。

 速度が上昇してしまってからではエンジンブレーキで速度を落とすことは難しい。あくまで車速の増加をある程度抑えるための手段なので、下り坂に入ったらすぐにエンジンブレーキを使う習慣をつけることだ。

フル充電状態のリーフ。フル充電になると、モーターによる減速は起きないので要注意

■ブレーキの踏み方にも注意したい! ブレーキフルードの交換も行いたい

劣化したブレーキフルードの影響もある(Kritchai@Adobe Stock)

 フットブレーキをなるべく使わないようにと思い、弱くブレーキをかけ続けるドライバーもいるだろうが、これはNG。ブレーキは使用している状態では温度を下げにくくなってしまうため、フェードしやすい環境を作ってしまう。

 そのため下り坂での減速にフットブレーキを使うなら少し強めに踏んで、目的の速度よりやや低い速度まで低下させることだ。そして再びブレーキペダルから足を離してブレーキを冷やしてやること。

 ブレーキペダルの反応が怪しくなってきたと思ったら、見通しの良い区間であれば一度クルマを停止させてブレーキを完全に冷やしてやるくらいのほうがいい。本来は完全に停車するより、徐行程度まで減速して走っているほうが、走行風でブレーキは冷える。

 もしブレーキが甘くなった、効かなくなったと思ったらクルマを壁やガードレールに擦ったり、砂を積み上げた緊急退避所にクルマを突っ込ませることも最終手段として覚えておこう。クルマは壊れるが、ここは乗員の安全を優先するべき場面だ。

 車検時にブレーキフルードを交換しておくこともベーパーロックを防ぐために効果的な対策だ。エンジンオイルなどと違い、部品の寿命を左右するものではない(実際にはドラムブレーキのホイールシリンダーの寿命は左右するが)が、ブレーキペダルの踏みごたえもしっかりする。

 ブレーキパッドも半分以下に減ってくるとフェードしやすく、ベーパーロックも引き起こしやすくなる。車検時に交換してもらうほうが、作業工賃の節約にもなるので寿命を考えて早めに交換することだ。

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