今季2022年よりFIA国際自動車連盟のインターナショナル選手権に昇格した電動オフロード・シリーズ『エクストリームE』は、11月26〜27日に南米大陸ウルグアイでの最終戦『ウルグアイ・ナチュラルエナジーX Prix』を開催。ニコ・ ロズベルグ創設の初代王者ロズベルグ・Xレーシング(RXR)と、同じくF1王者ルイス・ハミルトン率いるX44ビーダ・カーボン・レーシングのタイトル争いに注目が集まるなか、予選Q1でクラッシュを喫し車両交換を強いられながらも、X44のセバスチャン・ローブ/クリスティーナ・グティエレス組がファイナルで繰り上げ3位に入り、大逆転でのシリーズチャンピオンを獲得する結果となった。
その逆転劇を演出したペナルティ多発の最終決戦では、同じく前戦より“砂漠の女王”ユタ・クラインシュミットに代わり、レギュラー起用された22歳のクララ・アンダーソンと、ダカール王者ナッサー・アル-アティヤ所属のABTクプラXEがシリーズ初優勝を飾っている。
ウルグアイの世界的高級リゾート地、プンタ・デル・エステでの最終戦を迎えた2年目のシリーズは、チリでの第4戦『アントファガスタ・ミネラル・カッパーX Prix』に続く南米大陸連戦となり、会期直前には各陣営で数名のドライバー交代がアナウンスされるなど、都合4チームによるタイトル争いの準備が整えられた。
美しい湖畔沿いの草原と砂地が入り混じる全長2.9kmのワイドかつ高速設定のコースでは、直前に複数年契約を更新したジェネシス・アンドレッティ・ユナイテッド・エクストリームEのティミー・ハンセン/ケイティ・マニングス組が最初のプラクティスから速さを見せる。すると予選ヒートでは、新たなペアリングで臨んだヴェローチェ・レーシングのケビン・ハンセンと、昨季はRXRに所属して初代チャンピオンを獲得したモリー・テイラーが、印象的な速さでトップの座を射止めてみせた。
「こうしてエクストリームEに戻ってきて、ヴェローチェと一緒にいられるのは素晴らしいこと。彼らは素晴らしいチームで、私たちは素晴らしい時間を過ごしているから、このような初日を迎えることができて本当に励みになる。やるべきことはまだたくさんあるけれど、全体として可能なところではプッシュし、必要なところは管理することができた。明日以降が本当に楽しみね」と早くもチームにフィットし手応えを語ったテイラー。
その一方、対照的な展開となったのがX44のグティエレスで、初タイトルへの意気込みからか前戦勝者のワンメイク車両『オデッセイ21』はQ1でクラッシュを喫し、フィニッシュに到達することができず。大きな損傷を負った個体に代えて、シリーズが保有する“チャンピオンシップ・カー”をスペアとして使用することを余儀なくされた。
「セカンドカーを使用したのはこれが初めてで、今までにシャシー変更を経験したことはない。僕らはまずクルマに慣れる必要があり、それは以前のように機能してはいなかった。シートポジション、ペダル、すべてが間違っていたし、Q2で慣れるために順応しなければなかったんだ」と、その窮状を明かしたWRC世界ラリー選手権“ナイン・タイムス・チャンピオン”のローブ。
「それでも決勝に向けた夜間には、チームがクルマを以前の個体と同じように調整する素晴らしい仕事をしてくれたから、決勝日はずっと気分が良くなったよ」
そう語ったレジェンドだが、失地挽回を求められた予選Q2ではシートポジションもままならない状態でスタートからバックオフするリスクを取ると、ウェイポイントの5~13の間に設定された“コンチネンタル・トラクション・チャレンジ”と称するボーナスポイント区間にすべてを賭ける大胆な戦術に打って出る。
ここでクリーンエアのもとアタックを敢行したWRCレジェンドは、ライバルより0.5秒速いタイムを記録して貴重な5ポイントを獲得。ファイナル進出に向け敗者復活“クレイジーレース”への進出を決めてみせた。
■ローブ「本当にホッとしている。チャンピオンシップに勝てたことを本当に誇りに思う」
これにより、予選ヒート2でバトルからの損傷を負って敗退を喫していた選手権首位RXRとの直接対決構図が整うと、この敗者復活ではくっきり明暗が分かれる展開に。ふたたびマシンにダメージを負ったヨハン・クリストファーソン/ミカエラ-アーリン・コチュリンスキー組のマシンは、なんとかレースへの復帰を試みるべくスイッチゾーンで懸命の修復作業を実施するも、クルーの上限人数を超えた作業で失格処分となり、トラブルで落とした前戦に続く失意の結果となってしまう。
この結果、予選首位のヴェローチェ・レーシングやABTクプラXE、プラクティス最速のジェネシス・アンドレッティ・ユナイテッドに加えて、タナー・ファウスト/エマ・ギルモア組のNEOMマクラーレン・エクストリームEらとともに、前戦チリよりエントリー名を改称したX44ビーダ・カーボン・レーシングが、辛くも最終ヒートの出場権を獲得する。
そのX44がポイントリーダー不在のファイナルで逆転チャンピオンを奪うには、少なくとも3位表彰台を獲得する必要があったが、スタートを担当したローブは同じくダカールで覇を競ったアル-アティヤに先行されると、直後にはマクラーレンのファウスト、アンドレッティのティミーにもかわされ4番手に後退してスイッチゾーンに戻ってくる。
後半スティントに向けステアリングを引き継いだグティエレスは、背後のヴェローチェ・レーシングがウェイポイントのフラッグに接触し5秒ペナルティが科されたことで、前を追うことに集中する環境を得ると、前方のマニングスを必死で追う展開に。しかし追い上げてきた初代王者テイラーとの攻防で接触、この衝突が審議対象となり、のちに5秒加算の判断が言い渡される。
逆転初王座に向け残り時間が少なくなっていくなか、4位チェッカーが不可避な状況となったX44だが、ここで前を行くアンドレッティにスイッチゾーンでの速度超過違反が発覚。これに7秒のペナルティが科せられ、マニングスから2秒以内でフィニッシュしていたグティエレスは、わずか0.5秒差で3位に昇格。この最終ポディウム獲得により、たった2ポイント差でRXRを上回ったX44が、初のシリーズチャンピオンを手にする結果となった。
「まだ信じられない気分よ! とくに昨日のロールオーバーの後は、私たちにとって非常にタフな週末になってしまった。チームは(スペアの)マシンでクレイジーな仕事をしてくれたし、予選ヒート2は初めてのドライブだったんだから!」と、ジェットコースターのような展開を振り返る新王者グティエレス。
「決勝に関しては、無線で『誰かがペナルティを受けるだろう』と言われたけど、それでも私は自分たちがチャンピオンになると知らなかった。勝ったことを確認したかったから、公式結果が出るまではお祝いの気分すらなかったし……本当にジェットコースターだったけど、ようやく私たちが達成したことを信じることができた。こんな結末が来るなんて、本当に良かった……」
一方、予選でのファインプレーから決勝では苦しい展開を強いられたローブも「自分たちの持っているものすべてで競い合い、最大ポイントを獲得しようとすることしかできなかった」と、厳しい状況でのタイトル獲得となった。
「決勝では3位に入る必要があったのに、僕が4位に終わってしまった。これが決定的な瞬間だったが、あちこちで接触があり、追い越すためにできることは何もなかったんだ」と続けたローブ。
「それでもクリスティーナは、前のクルマに非常に接近する素晴らしい仕事をしてくれた。(周囲のペナルティで)3位になる可能性があることはわかっていたし、最終的にはそれが必要だったから、ここにいることができて本当にホッとしている。チャンピオンシップに勝てたことを本当に誇りに思うよ」
その前方では、クララ・アンダーソンの慎重なドライブがエマ・ギルモアをミラーに押し留め、アンダーソンはデビュー戦以降の連続表彰台でシリーズ初優勝を獲得。2位のNEOMマクラーレン・エクストリームEにとっても、前戦でトップチェッカーを受けながら、ペナルティにより失意のどん底に落とされたリベンジとなるチーム初表彰台を手にした。
「ワァオ! 正直に言って今、私にはたくさんの感情がありすぎて、なんて表現してよいかわからないほどよ。私はこれを長い間待っていたんだから」と、新加入のABTに初勝利をもたらしたアンダーソン。
「これが私にとっての2戦目で、急遽の参戦でなくフルバージョンの週末を過ごしたのも初めてのこと。表彰台の真ん中を獲得できたことは大きな喜びだし、ナッサーとチーム全体がいなければ、私はそれを成し遂げることができなかったでしょうね」
これでフルシーズン2年目の全日程を終えたExtreme Eは、来季3年目のカレンダーをすでに発表しており、2023年は3月11~12日にサウジアラビアで開幕の日を迎え、スコットランド、イタリア・サルディニアと続き、北米かブラジルでの1戦を経て、ふたたびチリでフィナーレを迎えるスケジュールが予定されている。