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 かつて大型トラック用ディーゼルエンジンといえば、20L級の自然吸気が当たり前だったが、それも今は昔。最新のトラック用ディーゼルエンジンはすべてターボチャージャー付きとなり、排気量は10L前後に……。なかには大型車で7.7L級エンジンを搭載するモデルまで存在するから驚きだ。

 一体、なぜトラックのエンジンはターボ付きとなったのか? なぜ排気量が年々下がっているのか? 

 トラック用ディーゼルエンジンの知られざる進化の歴史を、トラックに造詣の深い多賀まりお氏が紐解く。

文/多賀まりお 写真/いすゞ自動車、トラックマガジン「フルロード」編集部


排出ガス規制と省燃費化への対応

いすゞ自動車が1997年発売の大型セミトラクタ「ギガトラクタ」に搭載した「10TD1」型V10ディーゼルエンジン。排気量30390ccは公道用車両エンジンとして過去最大。最高出力は600PSを発揮した

 ディーゼルエンジンの排出ガスに含まれる主要な規制対象物質は、高温の燃焼によって空気中の窒素と酸素が結びついて発生する「窒素酸化物(NOx)」と、酸素が少ない(燃料が濃い)状態で燃焼した際に発生する「粒子状物質(PM)」の2つに大別される。

 どちらも環境や健康への影響が指摘され、近年規制の厳格化が進んでいる。

 NOxはガソリンエンジンでも発生するが、多くのガソリン車が使う「理論混合比」燃焼のエンジンでは、炭化水素、一酸化炭素の酸化と同時に窒素酸化物を還元する「3元触媒」によって浄化している。この3元触媒が効果を発揮するには、排ガス中に酸素が残っていないことが求められる。

 だが、燃料噴射量だけで負荷調整するディーゼルエンジンの燃焼は、基本的に空気が過剰な状態で行なわれる。そのため排ガス中に酸素が残り、3元触媒ではNOxが還元できない。

 ディーゼル排ガス規制対応の初期は、ほかに効果的なNOx浄化方法が確立されていなかったため、エンジン本体での対応が先行。主な手法は、酸素濃度の低い排ガスを燃焼室内に再循環させる「EGR」で、燃焼を緩慢化させて燃焼温度を下げる効果を持つ。

 いっぽう、触媒技術の開発が進んだ現在は、厳しい排ガス規制に対応するためPMを補修するフィルター(DPF)とともに、NOxを低減する後処理装置の搭載が事実上不可欠に。後処理装置の代表格が、尿素水溶液(アドブルー)から変換したアンモニアによって効果的にNOxを還元する「尿素SCR触媒」だ。

ターボが必須になったワケ

 PMを減らすためには、燃料噴射系の改良(噴射圧の高圧化や多段噴射制御)による燃焼制御で、燃料の濃すぎる(酸素が不足する)部分をなくすことが高い効果を持つが、基本はなるべく多くの酸素を燃焼室内に取り入れることだ。

 このため、ピストンの下降による負圧だけでシリンダー内に空気を吸入する自然吸気エンジンは、ディーゼル排ガス規制の厳格化が進むと対応が難しくなり、2005年施行の平成17年「新長期」排ガス規制までに消滅。

 国内のトラック/バス用ディーゼルエンジンは、すべてターボチャージャー付きに置き換えられた。

 過給器の一種であるターボは、排気ガスの圧力でタービンを回し、その回転力でコンプレッサを駆動して吸入空気を圧縮。自然吸気よりも多くの空気をシリンダーに送り込み、増えた酸素量に見合った燃料噴射によって高い出力を発揮する。

 最新の排ガス規制対応では、EGRにより広範な運転領域で酸素密度の低い再循環ガスを導入しており、ターボ(過給)によって新規も積極的に取り入れないと充分な出力が得られない。規制適合と出力/燃費性能の両立を求められる最新のディーゼルに、過給は不可欠な存在なのだ。

高過給が実現したエンジンのダウンサイジング

 現在、トラックの各クラスで進んでいるエンジンのダウンサイジングとは、小型軽量ながら元のエンジンと同等の性能を持つ小排気量ユニットに置き換えることを指す。架装/積載上のメリット(大型車の場合、積載量を増やせるほか、エンジン全長の短縮でショートキャブが成立したりする)のほか、省燃費効果が期待できる。

 効果的な高過給システムや、最新の噴射系、高い圧力と熱負荷に耐える躯体などによって元のエンジンよりも高い「平均有効圧力(燃焼時にピストンに掛かる燃焼の強さの尺度)」を持つダウンサイジング用エンジンは、排気量が小さくても元のエンジンに遜色ない出力性能を発揮し得る。

 排気量が小さい分、エンジン内部の摩擦損失が小さくなり、燃費にも有利だ。

 ただし、同じ小排気量化でも、平均有効圧力が元のエンジンと変わらない小排気量エンジンでは、同じ走り方をしても元のエンジンより燃料消費量が多い高負荷域で運転されることが増え、結果的に燃費が良くならない場合もある。小排気量化が必ず省燃費効果をもたらすとは限らないのだ。

 かつて20L級の自然吸気エンジンが当たり前だった大型単車のエンジン排気量(最大はいすゞ10TD1型の30390ccV10)は、過給化によって13Lが主流となり、ここにきて8.8〜10.8L級にダウンサイズされた。

 排ガス規制は一段落した格好だが、これからはより一層燃費性能がクローズアップされ、燃費基準への対応などをきっかけとして、現在は軽負荷用途を中心とする7.7L級小排気量エンジンの守備範囲が、負荷の高い用途にも広がるのは確実だろう。

 海外ではディーゼル車を締め出す地域規制がすでに始まっているが、バッテリーの容積/重量に対するエネルギー密度及びコストが画期的に向上(低廉化)しない限り大型車、とりわけ長距離輸送用セミトラクタのフル電動化は容易ではない。

 待ったなしの課題であるCO2削減には、できることからやるしかない。可能な限りディーゼルを延命させる、これからの技術革新に期待したい。

投稿 大排気量自然吸気エンジンはナゼ消えた? 小排気量ターボが主流となったトラック用ディーゼルエンジンの進化の歴史を紐解く!!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。