レッドブルのマックス・フェルスタッペンが、F1メキシコGP決勝レースをポールポジションからスタートした。レッドブルにとっては、2018年のダニエル・リカルド以来4年ぶり、ホンダにとっては1990年のゲルハルト・ベルガー以来32年ぶりの快挙となった。
しかし、ポールポジションからスタートするフェルスタッペンにとって、メキシコGPには不吉なデータがあった。それは、ポールシッターは2016年を最後にレースで勝てていないということだ。この間、フェルスタッペンは3勝しているが、2017年と2018年は2番手、2021年は3番手といずれもポールポジション以外からの逆転勝利だった。
これはメキシコGPの舞台であるエルマノス・ロドリゲス・サーキットのスタートラインから1コーナーまでの距離が、全22戦中、最長であるため、ポールポジションのスリップストリームを2番手以下のドライバーが最大限利用できるからだ。
スタート前、グリッド上のフェルスタッペンとレッドブル陣営には少しピリピリした緊張感が漂っていた。国歌斉唱のセレモニーを終えてポールポジションのグリッドに帰って来たフェルスタッペンがレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼと最後の打ち合わせに入ると多くのカメラが周囲に近づく。すると、フェルスタッペンは周囲を確認し、ランビアーゼは手にしていたメモを周囲に見えないように傾けた。
カメラマンが周囲から離れるのを確認すると、フェルスタッペンとランビアーゼは、再び話し合いを始めた。このとき、ふたりは戦略の再確認をしていた。それは、ソフトでスタートし、ミディアムでつなぐ1ストップ作戦だ。
今回のメキシコGPのレース戦略は通常よりも予測が困難だった。それは本来であれば、レース用のロングランデータを取るフリー走行2回目がピレリの2023年用タイヤのテストに費やされたため、ロングランをフリー走行1回目と3回目でしか行えなかったからだ。
フリー走行1回目でフェルスタッペンが行った走行プランはハード12周、ソフト10周の合計22周。一方、ルイス・ハミルトン(メルセデス)はハード9周、ソフト8周の合計17周だった。両者ともミディアムは必須と考え、ハードとソフトのどちらをレース用のタイヤに選択するかが注目された。
果たしてレッドブルはソフトを選択し、メルセデスはハードを選んだ。フェルスタッペンとランビアーゼはそれをグリッド上で近づくカメラマンに見られたくなかったのだ。
フォーメーションラップがスタートする直前、タイヤウォーマーが外され、メルセデスがミディアムタイヤを装着しているのを見たとき、クリスチャン・ホーナー代表は驚いたという。「レッドブル陣営の計算では、ソフト→ミディアムが最速の戦略だった」が、メルセデスはミディアム→ハードを選択したからだ。
テクニカルディレクターのピエール・ワシェもスタートの瞬間、「勝てる」と確信した。
ランビアーゼは言う。
「最初から1ストップだった。マックスのタイヤマネージメント能力を信じていたからね」
ポール・トゥ・フィニッシュしたフェルスタッペンは、今シーズン通算14勝目を挙げ、2004年のミハエル・シューマッハー(フェラーリ)、2013年のセバスチャン・ベッテル(当時レッドブル)を抜いて単独で年間最多勝ドライバーとなった。ようやく、フェルスタッペンに笑顔が戻った。