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 WEC世界耐久選手権の第5戦富士6時間レースに来日した気になるドライバーに突撃インタビューするこの企画、3人目として紹介するのは、リアルチーム・バイ・WRTのフェルディナンド・ハプスブルク・ロートリンゲン。2017年のマカオF3ワールドカップ、最終ラップの最終コーナーで“散った”姿をご記憶の方も多いだろう。そしてご存知ハプスブルク家の末裔ということで、日本人関係者の間ではいつしか“王子”と呼ばれるようになっている。

 しかしその素顔は、とても明るくて気さく。まだまだ元気いっぱいのやんちゃ坊主といった若者だ。

 彼がレーシングドライバーとして来日したのは、今回のWEC富士が初めてのこと。だが、来日自体は2回目。まだ12歳の頃に、家族旅行で花見シーズンの東京を訪れたのだと言う。ロイヤルファミリーだけに、やはり皇居にも行ったのか?

「行ってはみたんだよ。それで『おーい、僕は王子だよ〜』ってノックしたんだけど、皇居の門は閉じられたままだった(笑)」

 こんな調子で一事が万事、冗談をかましてくれるのが、彼のいいところだ。

 そのフェルディナンドだが、モンツァで発表した通り、来年からは“ファンのコミュニティーがチームオーナーになる”という『Rebel Team(レベル・チーム)』をWRTとともに立ち上げることになった。今回は、その内容について(マジメに)話を聞いてみた。

2017年マカオGPでクラッシュしたマシンを引きずり4位でチェッカーを受けた後、両手を掲げるフェルディナンド・ハプスブルク
2019年DTMノリスリンク戦で、スーパーGTとの特別戦に向けたauto sport誌の取材に協力してくれたハプスブルク。当時、クラス1規定のDTMではアストンマーティンをドライブしていた。
2019年DTMノリスリンク戦で、スーパーGTとの特別戦に向けたauto sport誌の取材に協力してくれたハプスブルク。当時、クラス1規定のDTMではアストンマーティンをドライブしていた。

■ドライバーラインアップも多数決で決める

「このアイデア自体は、今年の2月に思いついたんだよね。レースファンの中には、年に1回とか2回、現場にレースを見に行くだけじゃなくて、もっとチームやドライバーと近づきたい、もっと深く関わり合いたいと思っている人たちがいるんじゃないかと思うんだ」

「そういう人たちに年間300ユーロとかで会員権を買ってもらって、オーナーシップを分け合うんだ。いままでは、たった1人のオーナーが、ドライバーラインアップやマシンのカラーリングを決めていただろう? だけど、そういうことも民主的に決める。みんなで話し合って、その後、オンライン投票によって、メンバーの多数決で決めるっていうのがRebel Teamのアイデアなんだ」

「最初の目標としては、2000人ほどメンバーを集められればいいなって思っているんだけど、その後はもっと大きなコミュニティにしたいと思っている。いずれはF4からF3に上がる資金がないドライバーの中から、みんなで選んだ誰かを無償でF3に乗せたり、そこからF2やF1まで押し上げられるだけのものにできたらいいと思っているよ」

「しかも、ブロックチェーン技術を使って、資金の流れを全部オープンにする。今、どれだけの資金があるか、何にいくら使ったか。そういうことを隠さず全て明らかにした状態で運営して行くことにしているよ」

 また、メンバーたちがよりレースやチームの詳細情報を知ることができるようにというプランもある。

「日本のファンの人たちでも、富士には来られるけど、スパだったりル・マン だったり、そういう所までは足を運べないっていう人もいると思うんだよね。でも、Rebel Teamでは、ドライバーの控え室とかそういう部分にまでカメラを置いて、常にメンバーとコミュニケーションすることを考えている」

「もちろん、メンバー同士にもお互いにどんどん会話してもらいたいと思っているけど、さらに専属のレポーターを雇って、『いま起こっているトラブルの原因が何なのか』とか、『いまはこういうストラテジーを採っていて、こういう状況だ』とか、TVで見ているだけでは分からないチームの中の情報をリアルタイムでどんどんメンバーに提供するんだ」

「そのためにいま、Discordと呼ばれるプラットフォームも作っているんだよ。それに、例えば抽選で、僕とレースウイーク中、一緒のホテルに泊まって、ともに行動するというチャンスをプレゼントしたり、そういうことも考えているんだ」

ELMS第2戦イモラで連勝を飾り、表彰台で恒例のジャンプを見せるプレマ・レーシングのフェルディナンド・ハプスブルク
ELMS第2戦イモラで連勝を飾り、表彰台で恒例のジャンプを見せるプレマ・レーシングのフェルディナンド・ハプスブルク

■日本にも、アメリカにもスタッフがいる

 次戦バーレーンでは、Discordに関してテストし、来年の年明けからは本格始動をする予定だというRebel Team。そのために、フェルディナンドは多忙な日々を送っている。

「レースウイークは、もちろんレースに集中しているけど、それが終われば毎日多くのメールに対応したり、各国のスタッフに連絡したりと目まぐるしい日々が続くよ。日本にもふたりデザイナーがいるし、カリフォルニアにはPR担当、さらにヨーロッパにもスタッフがいるから、そういう人たちと度々電話したりね」

「僕自身、初めて会社を立ち上げて、いままでやったことがないことばかりだから、本当に大変だ。だから、少し落ち着いたら、誰かに代わりにCEOをやってもらいたいと思っているんだ。そうなっても、僕にはこのプロジェクトの“顔”という役割があるんだけど、うまく回り始めたら、実務は誰かにやってもらいたいと思っている。僕にとっては、まだドライビングやレースに集中することの方が大切だからね」

2021年ル・マン24時間レースのLMP2クラスを制したチームWRT31号車オレカ07・ギブソンのロビン・フラインス、シャルル・ミレッシ、フェルディナンド・ハプスブルク

■フェネストラズとは大の仲良し。GT500にも興味あり

 すでに昨年、ル・マンのLMP2クラスで優勝したり、WECのチャンピオンとなっているフェルディナンド。では、レーシングドライバーとしての彼の次の目標は何なのだろうか? やっぱりWRTが走らせると発表したBMWのLMDhに乗りたいのだろうか?

「それはもちろん乗りたいと思っているよ! でも、BMWには僕より経験豊富なプロのドライバーが大勢いるから、なかなか簡単なことではないよね。ただ、僕はまだ25歳だし、まだまだ進歩できると思っている。だから、将来的にはファクトリードライバーとしてレースができれば最高だなって思っているよ」

 ちなみに、フェルディナンドはサッシャ・フェネストラズと大の仲良し。サッシャから日本のレースのことを聞いて、スーパーGT・GT500に対してものすごく興味を持っているのだという。

「ねぇねぇ、豊田(章男)さんに話をしてきてよ。ここにこんな王子がいるからって。もしシートが決まったら、キミにマネージメント料を15%払うからさ〜(笑)」

 と、最後まで冗談をかます王子。本当に親しみやすくてナイスガイなので、皆さんもRebel Teamのメンバーになったら楽しいと思いますよ〜。

2022年WEC第5戦富士 ピットウォークで多くのファンに対応するフェルディナンド・ハプスブルク
2022年WEC第5戦富士 ピットウォークで多くのファンに対応するフェルディナンド・ハプスブルク
フェルディナンド・ハプスブルクのドライブにより、予選でクラス3番手を得たリアルチーム・バイ・WRTの41号車オレカ07
フェルディナンド・ハプスブルクのドライブにより、予選でクラス3番手を得たリアルチーム・バイ・WRTの41号車オレカ07 2022年WEC第5戦富士