2022年、ENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by HankookにはST-X、ST-Z、ST-Q、ST-1〜5と、ST-TCRをのぞく8クラスでトヨタ/レクサス車が走っている。ベース車が存在するということがいちばんの理由ではあるが、いまやトヨタ/レクサス車はスーパー耐久に欠かせない存在と言えるだろう。10月16日に岡山国際サーキットで開催された第6戦『スーパー耐久レース in 岡山』のグループ2のレース後、GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントに、今後のTOYOTA GAZOO Racingとしてのカスタマーモータースポーツのあり方、そしてスーパー耐久はもちろん、世界中のグローバルモータースポーツに関わるGT3/GT4への取り組みについて直撃した。
■モータースポーツ全体の盛り上がりを作っていきたい
多種多様な車両がさまざまなクラスに分かれて競い合うスーパー耐久。そのバラエティの豊かさはシリーズの最大の魅力のひとつであるが、長い歴史のなかでそれぞれのクラスの参戦車両はさまざまに変化してきた。現在はST-X、Z、TCRはカスタマーレーシングカー、ST-1〜5は基本的にチームが製作した車両が走るが、いまや8クラスにトヨタ/レクサス車が参戦している。
これは近年TOYOTA GAZOO Racingとして“もっといいクルマづくり”をモットーに、GRスープラ(ST-Z、ST-1で使用)やGRヤリス(ST-2で使用)、GR86(ST-4、ST-Qで使用)などさまざまなスポーツタイプの車両をリリースしているからこそ。今回、GRカンパニー佐藤プレジデントに直接話を聞く機会があったことから、今後TOYOTA GAZOO Racingとして、カスタマーモータースポーツにどう関わっていくのかを聞いた。
佐藤プレジデントはこの問いに対し「もちろん我々はWRC世界ラリー選手権やWEC世界耐久選手権など、世界選手権に挑戦していて、そこから学ぶことも多いのですが、我々は自動車会社として“もっといいクルマづくり”を通じて、お客さまの笑顔をもっと増やしたいと思っています」と語った。
「そのときに、モータースポーツにエンゲージ(従事)されている方々からの学びがすごく多いんです。やはり出たり入ったり……というのはいけなくて、きちんとカスタマーモータースポーツを支えられるようにするために、我々に何が期待されていて、どういうことをやっていけば良いのかというのは、正直模索しているところです。いろいろなところで、エンゲージされている方々の意見を聞きながら、自分たちの役割を毎日探している状況です」
そう語る佐藤プレジデントだが、ベースとなる考え方として「一貫して我々がやりたいことは『モータースポーツ全体の盛り上がりを作っていきたい』ということ」だという。この裏には、自らドライバーとしてモータースポーツを盛り上げるべく活動している豊田章男社長の意向も大いにあるだろう。
そして、そのために「根っこにあるカスタマーモータースポーツは今まで以上に重視しなければなりませんし、そこで学ぶことが、お客さまにとって“あって欲しいクルマ”を作ることに繋がります。そこで得られた学びはいろいろなことに繋がり、クルマそのものの価値を高めていくと思っています」と、モータースポーツ活動が市販車の価値向上にも繋がるだろうとした。
ただ佐藤プレジデントの言葉にもあるとおり、まだ「役割を毎日探している状況」でもある。「我々はこれからカスタマーモータースポーツにもっと力を入れようと思っていますが、具体的に『あれをやろう』と言えない自分たちがいるのも事実で、もっと入り込んで勉強させていただきたいと思っています」と正直に語った。
「スーパー耐久で言えば、シリーズにマウントするようなつもりはまるでなくて、逆にスーパー耐久機構(S.T.O.)さんにいろいろなアドバイスをいただいています。スーパー耐久に“ネイティブ”で参加されている方々にとって、我々がどういう役に立てるのかということです」
「例えば、ST-Qクラスでクルマの開発が進み、いろいろな技術が磨かれれば、ST-4クラスにフィードバックできると思うんです。例えば参戦コストを下げるような技術開発も、我々が現場にいることでできるかもしれない。今はスバルさんともそういった話をしています。我々がST-Qでやっている内容が、ゆくゆくはST-4に“果実”としてちゃんと落ちていく。そういったことを各クラスでやっていくためには、どうすれば良いかということも考えています」
■気になるGT3/GT4カテゴリーへの向き合い方
一方で、ファンにとっても気になるのが、現在世界中のレースで活用されているGT3/GT4カテゴリーへの向き合い方だ。現在GT3ではレクサスRC F GT3が戦っているが、一方で2022年1月には東京オートサロンで新たなGT3カーとしてGR GT3コンセプトがお披露目された。
そんななか、2022年から日本で4戦が開催され復活を遂げたファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWSにもシリーズ協賛を行い、GRスープラのセーフティカーを提供するなど、GT3/GT4カテゴリーへの参画も強めている。
これについて佐藤プレジデントは「特にGT3、GT4というのは、現在のカスタマーモータースポーツのなかで最も注目されているゾーンで、グローバルに同じフォーマットで動いていますよね。我々もGT3に対してはいろいろな思いをもって向き合いはじめていますし、将来その領域でもカスタマーモータースポーツを支えられるようになっていきたいと思います」と理由を語った。
気になるGR GT3は、現在はまだ登場時期も明らかにされていない。まだ開発途上と言われているが、本格的な登場は2024年になるのではないかとも言われている。そんななか筆者は「GR GT3はオートサロンで登場したコンセプトモデルとはガラリと外観が変わるのではないか」という情報も聞いた。ズバリ佐藤プレジデントにこの質問をぶつけると、さすがに答えづらい質問だったか「そんな噂があるんですか(苦笑)」という返答がきた。
「もちろん、オートサロンでお披露目したクルマは『コンセプト』の名がついているとおり、あくまで『コンセプト』です。そこからいろいろなノウハウが当然入っていきますし、空力についても日進月歩で進んでいきます。そういった影響は受けますし、“機能がデザインになっていく”世界ですから、あの形のまま出るかどうかは、その時代時代の進化が当然織り込まれると思います」と佐藤プレジデントは言葉を選びながらも、ていねいに回答してくれた。
「このGT3という領域では、『モータースポーツの世界で絶対に勝つ』という思いが先にありすぎるとおかしくなってしまう。SROモータースポーツ・グループが言っているGT3というカテゴリーのコンセプトとあり方へのリスペクト、参戦コストやベース車両のあり方などは、ちゃんとマナーというか、価値観を守った上で我々ならどう出していくか……というところだと思います」
「オートサロンのときはGT3レースカーとしてはこんなイメージだよね、ということを示していますが、そもそもそこが“ありき”ではない。最初にそういった『スポーツカーをちゃんと作る』というところから入るので、必ずしも形があのままということではないかもしれない……と、言えるかもしれない……くらいにしてください(笑)」
今回佐藤プレジデントから説明してもらったとおり、TOYOTA GAZOO Racingとしてモータースポーツにどう向き合っていくのか、そしてスーパー耐久、さらにはグローバルなGTカテゴリーへの向き合い方などは、そのコンセプトを理解することができた。今後“もっといいクルマづくり”が、どうモータースポーツを盛り上げてくれるのか、注目していきたい。