フェラーリF1チーム代表のマッティア・ビノットが2022年末で辞任し、チームを離れることが、11月29日に正式に発表された。ビノットの離脱は、今年のサマーブレイクのころにはすでに避けられない状況だった。シャルル・ルクレールをはじめとするチームの主要メンバーとの間の溝が深まり、修復不可能になっていたのだ。
2022年のフェラーリは、強力なマシンを作り上げ、シーズン序盤はタイトル獲得に向けて好調さを見せていた。しかし、次第にレッドブルほどのパフォーマンスを発揮できなくなってきたことと、戦略やピットストップのミス、ドライバー自身のミスが続いたことで、早々にタイトルの可能性を失った。
ルクレールが勝利を失ったイギリスGP後、ビノットと会話する様子から、ふたりの不仲の片鱗を感じ取ることができた。イギリスGP決勝でルクレールが首位を走行していた時にセーフティカーが出動。フェラーリはルクレールをステイアウトさせる一方で、後ろを走っていたカルロス・サインツのタイヤを交換。リスタートで不利になったルクレールは、サインツをはじめとする後続のフレッシュタイヤを履いたマシンに次々と抜かれ、4位に落ちてしまった。フェラーリの戦略のまずさが批判されたレースだった。
決勝直後、いら立つルクレールにビノットが厳しい表情で語りかける様子から、ふたりの関係悪化がうわさされた。ビノットはそれを否定していたものの、実際にはこの後、ふたりはあまり会話をかわさなくなっていった。この事態を重く見たフェラーリ会長ジョン・エルカーンとCEOベネデット・ビーニャは、長期的に考えて、ドライバーをうまく制御できないチーム代表より、才能あるドライバーを確保することの方が重要であるとの結論に達した。そのため、ビノットの立場は極めて弱くなってしまった。
フェラーリ社上層部がチームを他の人間に任せたいと考えたもうひとつの理由は、ビノットがチーム全体の向上に貢献していないと考えたことだ。今年フェラーリは戦略やピット作業のミスを何度か犯したが、ビノットはチームの改革に積極的には取り組まなかった。ビノットが従業員をかばう発言を繰り返したことは、外部の人々からは優れたボスの態度として受け止められたが、フェラーリ社のボスたちは、ビノットはミスが起きたこと、物事を変更する必要があることを受け入れていないとみなし、それがチームの前進の妨げになると考えた。
さらに、ビノットはチーム外部に向かっては非常にフレンドリーで寛容な雰囲気を漂わせているが、内輪だけの席では、部下に対して非常に厳しく批判的で、頻繁に癇癪をおこしていたといわれる。そのためにエンジニアリングチームのほとんどのメンバーが、誤りを犯して叱責されるのを恐れて、決断を下したがらなくなっていたというのだ。
公式発表前、フェラーリ社幹部はビノットがチームを去る見通しとなったことに安堵しており、ある人物は「彼は早く去った方がいい。もう皆が彼に我慢できなくなっている」と漏らした。
このように、チーム内の雰囲気が悪化しており、ビノットが離脱せざるを得なくなるのは時間の問題だった。エルカーンとビーニャは解雇を検討していたものの、最終的には、多額の示談金を用意し、ビノット自身が辞表を提出し、威厳を持ってチームを去るという形を取ることにした。