10月30日に鈴鹿サーキットで予選・決勝が行われた2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権第10戦。山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)は、2010年のデビューと同じサーキット、同じチームで、国内トップフォーミュラ参戦100戦目を迎えた。
NAKAJIMA RACINGからフォーミュラ・ニッポン(当時)にデビューした山本は、初年度にルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。翌年からTEAM MUGENに移籍し、2013年には最初のタイトルを手にした。
2018年、スーパーGT・GT500とのWタイトルとなる2度目の王座に就くと、翌年はTEAM DANDELION RACINGへと移り、移籍2年目の2020年に3度目のシリーズ制覇を成し遂げた。
翌2021年からTCS NAKAJIMA RACINGへと復帰した山本だったが、ここで思わぬ低迷を喫してしまう。今季も、開幕前のテストでは浮上のきっかけをつかんではいたが、いざシーズンが始まると再び長いトンネルが待っていた。
「去年が本当に“どん底”だったのですが、そこから開幕前のテストにかけてはだいぶ復調してきた感じでした。でも、ふたを開けてみたらまた去年に戻ってしまったような感じで、しかもチームの2台ともが良くない状態でした」と山本は今季序盤を振り返る。
大湯都史樹ともども下位に沈む状況に、チームは昨年のデータやドライバーのフィーリングを踏まえ、毎戦セットアップに試行錯誤を繰り返すが「なかなか当たらなかった」(山本)という。
そんな山本が浮上のきっかけを最初につかんだのは、第5戦スポーツランドSUGOだった。
「第4戦オートポリスで大湯選手にいいセットアップが見つかって、それを参考にさせてもらったSUGOでQ1トップタイムが出せました。Q2は自分がまとめ切れませんでしたが、あそこは復調するきっかけにはなったかなと思います」
シビアかつハイレベルな現在のスーパーフォーミュラにおいて、“きっかけ”がつかめても、それが実るまでは時間を要するというもの。しかし、チームと山本は第7戦モビリティリゾートもてぎで、花を咲かせることになる。
その時点で今季の予選最上位が10番手だった山本は、ここで今季初ポールポジションを獲得。ウエットコンディションとなった決勝でも力強い走りで優勝を飾ったのだ。さらに翌日の第8戦では大湯が予選最速をマークするなど、チームとしても復調を遂げたように見えた。
だが、車両のセットアップの面については、もてぎで確固たるものが得られたわけではない、と山本は今季最終戦を前に振り返った。
実際、鈴鹿での第9戦は予選で首位から約コンマ7秒差の8番手、決勝はポイント圏外と、もてぎでの速さを再現できずにいた。金曜専有走行では「土俵に上がれた」手応えはあったものの、予選が始まると周囲のタイムアップについていくことができなかった。
「正直なところ、(セットアップに関して)『ここを抑えておけば大丈夫』とか『ズレてはいけないポイント』みたいなものが、分かっていません。もてぎはたまたま……と言ったらチームに申し訳ないのですが、たまたま踏み外さなかったポイントにいただけで、サーキットが変わってしまうと、また今回(鈴鹿)みたいにちょっと劣勢になってしまいます」
それでも、第10戦の決勝に向けては、短い時間で立て直しを図ってきた。Q1落ち、13番手スタートとなってしまった山本だが、オープニングラップでは4つ順位を上げ、その後もバトルを繰り返しながら順位を上げたのだ。結果は6位で、もてぎでの優勝に次ぐ今季のセカンド・ベストリザルト。満足のいく順位ではないが、前日から見事なリカバリーを果たしたと言える。
「クルマは格段に良くなりましたね」と第10戦を戦い終えた山本は明るい表情で語った。
「いくらスタートが良くても、前でアクシデントが起きたとしても、昨日のクルマだったらここまで上げられなかったし、むしろ順位を下げて帰ってきていたと思います。昨日はウォームアップも良くなかったし、タイヤもすぐなくなってしまって、レースペースも本当に最悪。どん底を味わったなかで逆に開き直った、ではないですが、かなり変えないといけないなと思いました」
「エンジニアさんもデータを見直してくれましたし、自分でも『これじゃないか』と思い当たる節を探して、それらを踏まえた変更を施したら、結果的に決勝は良くなりました。最後も平川(亮)選手に対してギャップをかなり詰めてゴールすることができ、そういう意味では昨日よりも明らかに改善はできたのですが、まだまだ足りない。今日は昨日以上に、レースをしていて気づけたことがあったので、結果以上の収穫はありました」
「ただ、早くそれを形にしないといけません。何年も乗れる保証も契約もないですし、ちゃんと結果を残すことが僕の仕事だし、プロとして求められていることなので。来年チャンスをもらえるという前提で、来年はどうしようか、というのを考えながら走っていたつもりなので……来年はやり返したいなと思います」
■今季の野尻は「異常」。経験者だからこそ感じる凄みと悔しさ
100戦出場という節目について、今年34歳を迎えた山本はこれまでに在籍したチームへの感謝の言葉を口にした。
「本当に長いこと走らせてもらっているなと思いますし、ただ走っただけでなく、優勝したり表彰台に上がったり、そして3回タイトルを獲得してきたという実績も含まれているものなので……」
「言葉が上手には出てこないのですが、100回走らせてもらえるというのは、誰でもできることではなく、それなりに結果を出し続けないと100戦を迎えられません。100レース、努力を続けてきた自分に対してはよく頑張ってきたなと思えますが、それ以上にあるのは100回もレースを戦わせてくれたチームに対する感謝です。NAKAJIMA RACING、無限、ダンデライアン、それぞれのチームに心から感謝しています」
また、第9戦で2連覇を決めた野尻智紀(TEAM MUGEN)については、3度のタイトル経験を持つ山本ならではの祝福の言葉が聞けた。
「本当にすごいことだと思います。誰がどう見ても野尻選手が獲るだろう、という雰囲気があったり、(周囲からは)『いまの野尻選手とTEAM MUGENって速いよね』という一言で片付けられてしまうところもあるなかで、ものすごいプレッシャーがあったと思います。“常に速く走り続けること”は、“速く走ること”以上に大変ですから」
「ワンメイクのなかで細かいことを積み重ねていって、“踏み外さない”ようにすることは本当に大変です。そこを踏み外すことなく連覇したのもすごいですが、今年何がすごいってワーストの決勝結果が4位。これはもう、“異常”ですね。そして、いくらプレッシャーから解き放たれたとはいえ、今日(第10戦)も当たり前のようにポールを獲ってくるというのは彼の真骨頂であり、彼とチームの強さがすべて表れていると思います」
圧倒的な強さを見せたライバルを称賛する山本だが、そこには当然ながら悔しさも滲む。それは、“101戦目”への原動力になりつつあるようだ。
「あそこに届いて追い越すには、並大抵の努力では及ばないのだと思います。そこはドライバーとしては羨ましさもあるし、当然悔しさもあります。でも純粋に、ああいう地盤を築き上げ、結果を残した野尻選手とTEAM MUGENは、本当に素晴らしいの一言だと思います」
「自分がああいう思いをしてきたからこそ、“獲られた側”に回るとかなり悔しいですね。だけどこれが現実だし、彼が残してきたもの・努力してきたものが、自分よりもすごかったということが結果として表れる世界なので、それは受け止めなければいけませんし、受け止める強さも必要です」
「自分でここを選んだわけですから、やっぱりこのチームで勝ってチャンピオンを獲りたいという気持ちがさらに強くなりました。なんとしてでも、このチームであのMUGENと野尻選手のような強力な姿を見せたい。そう思わせてくれました」