ニュージーランドの北島、オークランドを中心に開催されたWRC世界ラリー選手権第11戦『ラリー・ニュージーランド』は歴史的なイベントとなった。10年ぶりの復活開催という意味でもそれは当てはまるが、一番の要因はWRC史上最年少チャンピオンが誕生した点だ。
このグラベル(未舗装路)イベントで優勝し、22歳1日という若さで今季のドライバーズチャンピオンを確定させたトヨタのカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)について、彼のチームメイトでありプライベートでも仲の良い勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)に、ラリー後のオンライン取材会で話を聞いた。
勝田はこのWRCニュージーランドのデイ3でクラッシュを喫し、今シーズン初めてとなるリタイアでラリーを終えた。そのような結果となれば当然、悔しさなどのマイナス方向の感情を表すところだが、彼は僚友であり友人でもあるロバンペラが「チャンピオンを獲ったことがとてもうれしい。自分の結果よりも(ロバンペラを)祝福したい気持ちが大きいです」と語った。
ラリー・ニュージーランド(ラリーNZ)会期中の10月1日に、22歳の誕生日を迎えたロバンペラ。彼は今シーズンの第2戦スウェーデンから3連勝を飾り、第6戦ケニアで早くも4勝目をマーク。続く第7戦エストニアで5勝目を挙げ強烈なインパクトを残した。
シーズン後半戦に入ってやや歯車が噛み合わないラリーが続いたが、このラリーNZではふたたび他を圧倒するスピードを発揮し見事、総合優勝とパワーステージ最速の“フルマーク”でドライバーズタイトル獲得を確実なものとした。
ノっている時はとにかく手がつけられない状態となる新チャンピオンのストロングポイントを勝田に尋ねると、コンディションが悪いときのスピードとパワーステージでの速さ、彼はこのふたつを挙げた。
「シーズンを通して、どのラリーに行っても高いパフォーマンスを発揮していましたが、とくに印象的だったのはグラベルだろうがターマック(舗装路)だろうが、雨が降ったりだとか非常に難しいコンディションで、他の選手を寄せ付けないスピードを出していたことです」と勝田。
「またコンディションに関係なく、たとえ調子が悪いラリーでもいざパワーステージでプッシュし始めると、とんでもないスピードを出しますよね」
■才能や努力など、全部一括りにして「何かが突出している」
勝田がロバンペラと話しをしていると、「3回くらいコースオフしそうだった」「2回くらい(クルマを)コントロール下に置けていなかった」といったパワーステージの舞台裏も聞けるという。
それは次世代の“フライング・フィン”が、クルマのポテンシャル以上のものを引き出している証左であると考えている勝田は、「そんな状況下でもフィニッシュまで持ってきているということは、無謀にやっているわけではなく彼の中で『ここまで超えてもなんとかできるかもしれない』という自信があるためだと思います。なので、僕だけでなく他のドライバーもそう思っていると思うのですが、“限界が計れない速さ”を持っていると感じます」と語った。
悪条件での強さと、ここ一番の速さを武器に、ラリー全体を見ながらリスクマネジメントをしつつ勝利を重ねていくロバンペラに、勝田はこれまでのレースとラリーの両方のキャリアで出会ってきたどのドライバーにも感じなかった特別感を抱いているという。
「才能という一言だけで言うのは失礼かもしれないですけど、才能とか努力とか、もう全部ひっくるめて何かが突出している感じはありますね」
一方、プライベートでよく食事をともにするなど、普段から仲が良い友人としてのロバンペラについては、根っからのクルマ大好き少年と表現した。
勝田によると、ラリーの外でのロバンペラはWRC中継での口数の少ないイメージとは異なり、明るくワイワイ楽しく話すような感じだという。地元のドリフト大会に出場したりクルマの収集も行っているだけに、とくにクルマに関する話題は尽きないようだ。
「本人はクルマが大好きなので、つねにクルマの話をしています。日本車もすごく好きで、例えばですけど『トヨタの昔のレビンは日本でいまどれくらいの値段になってるの?』とか聞かれますね」と笑顔で教えてくれた勝田。
「いろいろとクルマをコレクションしたりとかもしているので、本当に根っからの“クルマ大好き少年”という感じです(笑)」