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 ついに“ル・マン”が日本に帰ってきた!

 というわけで、3年ぶりのWEC富士6時間レースが無事に終了しました。ここでは、コロナ禍になってから海外出張=ル・マンにも行けなくなり、WECのパドックに戻ることを心待ちにしていた編集部員が、富士戦の舞台裏を写真とともに(テンション高めに)お届けします。

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 あまりに興奮しすぎて(?)、水曜日から現場入りしてしまったas-web取材班。パドックにコンテナがズラーっと並ぶ様、そこで働く多くの外国人スタッフの皆様、飛び交うフランス語・イタリア語・英語・ドイツ語……コレですよ、コレ。あの“WEC富士”がいよいよ帰ってきたんだなぁ、とこの時点で早くも涙目でした。

 この日は雨がザーザー降っておりましたが、16時過ぎ、一瞬の雲の切れ間に、いざピットロードへと出撃します。もちろん、お目当てはプジョー9X8。あの“ウイングレス”ハイパーカーがいよいよ生で見られる……と思ったのですが、この日はガレージ内でウマに上げられておりまして、カウル類も外れたまま。うーん、これだとリヤウイングまわりを外したLMPカーとあまり変わらんよな、とちょっと落胆。いやいや、まだ水曜ですから、これが当たり前。

 気を取り直して、ピットロードを歩きます。この日はサインエリア以外の、ピット内部の設営はほとんどの陣営で終わってしまして、車両のメンテがメインのようでした。プレマ、コルベットなど、これまで日本にはあまり来たことがないところは新鮮。いやぁ、どのピットも装飾がカッコいいです。

 GTワールドチャレンジ・ヨーロッパなどでお馴染みの、アイアン・リンクス。映像で見ていて、マシンのカラーリングにもものすごく惹かれていたのですが、実際に見ると思っていた以上にビビッドで、いい! フロントエアダクトの金網の部分にもチーム名が入っているのがツボです。ピットの装飾もシンプルながら、黒を全面に押し出していてカッコいい。

 昨年デビューしたトヨタGR010ハイブリッドは、MEGA WEBでの記者会見の際に、少しだけ間近で見たことがあったのですが、この日はこの状態。まぁ、当然ですよね。

 ピットロードエンドまで来ました。一番端の45番ピットは、スーパーGTではつちやエンジニアリングの定位置ですが、WECではポルシェのセーフティカー専用ピットとしてあてがわれていました。こうして工具箱とともに、世界を転戦しているんですね。

■軽トラ+レーシングカー

 明けて木曜日。この日は朝イチから、中嶋一貴TGR-E副会長の独占インタビュー取材でした(写真撮り忘れ)。ドイツに赴任してから8カ月、多忙な副会長のお仕事内容、WECにおける役割などをたっぷり伺いました。近日中に記事化の予定ですので、少々お待ちください。

 取材終了後、走ってトヨタのピット裏へ。ドライバーが取材可能な時間帯だったので、小林可夢偉代表兼選手にお話を聞きます。まだ走行前であり、さらに大事な地元戦のレースウイークということもあってか、この時点ではやや表情が硬いかな、という印象を受けました。

 木曜のピットロードは、車検場との行き来や、ピットストップ練習が行われることなどもあって、マシン観察には絶好の機会。鈴木紳平カメラマンもル・マンのブログで触れていましたが、トヨタの転がし用の白ホイール、なかなかカッコいいです。

 しつこいようですが、アイアン・リンクス、カッコいいです。

 今年で見納めのLMGTEプロクラス。個人的には、GT3よりも明らかに作りが細かくて美しいLMGTE規定の車両が大好きなのですが、来季はアマクラスのみとなってしまいます。にしてもこのポルシェ911 RSR-19のリヤディフューザー、いいですね。リヤバンパーと一体構造なのは、素早い交換に対応するためのものと思われます。

 プジョーのピットの前に差し掛かると、ちょうどジェームス・ロシター選手がサーキット入りしたところのようで、メカニックさんたちに挨拶まわり。ついでに我々メディアとも挨拶してくれました。久々に会いましたが、相変わらず気さくなナイスガイです。

 この『軽トラでマシン牽引』が、一番“WEC富士ならではの光景”に感じてしまうのは私だけでしょうか。どう考えても、日本以外じゃありえなくて以前から好きなのです。

 プジョー9X8がピットにいない、ということで車検場へ。ちょうど94号車の車検が終わり、ピットへと戻されるところでした。途中、ピットロード入口で富士山を絡めて記念撮影。前日の雨を思えば、この日は富士山が顔を出してくれてよかったですね。

 ピット前に戻された9X8をじっくり観察します(同様のメディア・関係者の方多数)。本当、このクルマに関しては「見飽きる」ということがありません。どんな部分をとっても「見たことがない」造形ばかりで、本当に新鮮でした。

 ライター・世良耕太氏も、もちろんかぶりつきでウォッチング。その成果(釣果)は、こちらこちらからどうぞ。

 ドライバーも続々とサーキット入り。ピット裏でスタッフとじゃれあって爆笑しているのは、アレックス・ブランドルさんです。

 おーっと、イケメンの流し目っ! 個人的にもLMP2時代から注目していた、アルピーヌのマシュー・バキシビエールさんです。モンツァでの、トヨタを相手にしても一歩も引かない姿勢にはシビれましたね。念願かなって、このあとインタビュー取材ができましたので、気になる方はこちらからご確認を。

 午後になり、14時30分からはトラックウォークの時間。富士を初めて走るドライバーが多いこともあってか、チームスタッフを含め、想像以上の人数が続々とコースインしていきます。こちらはプジョー様ご一行。

 JOTAご一行は、なぜかピットロード出口で足を止めてみんなでヒソヒソ話。このときすでに、決勝で上位浮上のカギとなった燃費戦略を考えていたのでしょうか。

 デンプシー・プロトン・レーシングのハリー・ティンクネルさん。昨年まで、IMSAではマツダDPiのドライバーでしたし、2015年はニッサンGT-R LM NISMOのドライバーでもありました。なにかと日本メーカーに馴染みがあるドライバーです。

 セーフティカーの整備場所はピット出口寄りですが、待機場所は入口側のコントロールタワー前。右のスタッフは、ガムテープで前輪位置をバミっているところです。

 セーフティカーは、FIAドライバーアドバイザーのヤニック・ダルマスさんのお名前入り。もう1台にはセーフティカードライバーのペドロ・コウセウロさんのお名前が。こういったところも、さすが世界選手権といった感じですね。

■プジョーの核心部に迫りたい人と見せたくない人の攻防

 金曜日の走行開始前には、プレイベント記者会見が行われました。ここには地元の小学校が招かれてドライバーたちと記念撮影、さらには会見で『普通のクルマと(WEC)のレーシングカーはどちらが乗り心地がいいですか?』など、鋭い質問。これに5人のドライバー返答しました。「レースでも乗り心地のいいクルマを作りたい」と平川選手。

 今回注目のプジョー9X8、金曜夕方にはプレス向けのピットツアーにご招待して頂きました。この写真の直後、右下の由良拓也さん(カーデザイナーにしてJ SPORTSの解説者)がじりじりとクルマのリヤに近づいてローショットを懸命にスマホで撮影していたところ、プジョーのスタッフから注意が入るひと幕も。同じメディアとして、由良さんのその攻める姿勢に感服です!

 ピットの背後に設置されたドライバー3人のヘルメット置き場。ディスプレイの仕方がお見事です。見栄えだけでなく、この中は乾燥機能も付いているとのこと。

 こちらの真っ赤な写真はピット内が緊急時を示す時のもの。ハイブリッドの電気の漏電などが起きた際、天井のディスプレイの色を変えて『クルマに触るな!』とスタッフに伝達します。

 通常時の写真はこちら。違いが一目瞭然ですね。左端で体感したJ SPORTS高橋二朗さんも納得のご様子。

■トヨタの立ち入り禁止区域は「心のメモリに焼き付けて」

 土曜の朝は、富士名物のサーキットサファリから。ピットロードエンドの“ロレックスタワー”、バスは大丈夫かな……と思っていたら、そうですよね、さすがに避けますよね。

 今回はバス5台、そして最後尾には“護衛”のセーフティカーがつく安全第一仕様。ストレートエンドで写真を撮りながら見ていましたが、後方の安全を確認してから少し早めに減速して並走時間を確保するなど、サービス精神旺盛なドライバーさんもいましたよ。

 パドックの様子も少し見てみましょう。こちら、ポルシェのピット裏。ピット内に時計を表示するのは珍しくないですが、ポルシェはパドック側からも見える位置に時計を設けているんですよね。もちろんスポンサー(タグ・ホイヤー)アピールもあるのでしょうが、パドック側でもタイヤやカウル関連などの作業をするスタッフはいるわけで、そんな人たちに時間を知らせる機能もあるように見えました。

 タイヤウォーマーが使用可能なWEC。このように、箱型のテント内にタイヤを入れ、ジェットヒーターの熱で温める……というのがこれまでの主流だったように思います。

 今回は写真のプレマなどで、1本ずつ包む、いわゆるF1タイプのウォーマーを使用しているチームが増えていた印象でした。道具の世界も日々、進歩してますね。なかなかカッコいいです。

 AFコルセでプロクラスのフェラーリに乗る、アレッサンドロ・ピエール・グイディさんです。昨年最終戦の印象が強烈なせいか、どことなく“ヒール”な雰囲気も漂わなくはないですが、個人的には好きなドライバーです。やっぱり、フェラーリにはイタリア人ドライバーがいてほしいじゃないですか。

 トヨタさんもメディア向けガレージツアーを開催してくれました。案内役はなんと、一貴副会長。残念ながら内部の写真撮影はNGでしたが、ピット裏に並ぶモニター類の役割など、“元選手”目線で丁寧に説明してくれました。幸運にもGR010ハイブリッドのエンジンルームをじっくり観察することができましたが、「心のメモリに焼き付けてください!」(一貴副会長)とのことなので、多くは語りません。

 予選前に行われたピットウォークは大盛況。トヨタ、プジョーを中心に、長い列ができていましたね。観客の皆さんも、この瞬間を待っていた〜という空気でした。

 WRTのショーン・ゲラエルさんは、ファンの方が作ってきた“うちわ”に大喜び。

 急遽代役出場を果たした木村武史選手も、多くのファンに声をかけられていました。一瞬の合間を見て、カメラ目線をくれる木村選手、カーガイはナイスガイだっ!

 参戦台数が増えているWEC。今回は1コーナー寄りの“B棟”も2チームが使用していました(さすがにB棟は1台で2ピット分を使用)。そんな端っこの方で密かな人気を集めていたのは、セバスチャン・ブルデーさん。トレードマークのメガネには、タグホイヤーのロゴを確認しましたよ。

■カメラを持ったノリノリ王子

 そうこうしてたら、もう日曜日じゃないですか。決勝が始まる前から、「もう終わっちゃうのか……」とちょっとおセンチな気分ではありましたが、いやいやこれからが本番だろ、と自分にツッコミを入れつつ、とりあえずグリッドに行ってみましょう。暑い……。

 日差しが強烈ってことで、グリッドについたマシンは皆、窓に日除けが。そういえば誰かが昔、「ホイル焼き」って言ってたな……。

 日本における世界選手権では定番中のド定番、ハチマキ姿のメカニックさんをどうぞ。こちら、AFコルセご一行様。ラテン系のチームのノリって、ほんと最高ですよね。

 プジョーのジャン・マルク・フィノーさんが、ACO会長のピエール・フィヨンさんに何やらスマホを見せています。日本のレースのグリッドでのこういう場面では、たいていは天気予報や雨雲レーダーを見るタイミングなのですが、フィヨンさんのなんともいえない不敵な微笑みを見ると、どうやらそういった種類の情報交換ではなさそうです……。

 リアルチーム・バイ・WRTのグリッドで、来季からニッサン・フォーミュラEに乗るノルマン・ナトさんを発見。隣のチームメイト、フェルディナンド・ハプスブルク王子(どうしても王子と呼んでしまう)とともに、お口をあんぐり。何があったのでしょうか。ちなみに王子も今回インタビューしましたので、記事化までお待ちください!

 で、そのハプスブルクさんですが、よく見るとカメラを斜めがけしていますね。さらに流れてきた太鼓のリズムに合わせて踊るなど、観光客か! とツッコミたくなるほどグリッドをエンジョイしていました。もちろん、マシンに乗れば速いので、楽しめるときには楽しんでもらってよいと思いますよ。

 WEC最年少のジョシュ・ピアソン選手(16歳!)。こちらも、あまりにも気になりすぎてインタビューしてきました。掲載まで、もう少しお待ちください!(仕事が溜まっていく……)

 金曜日のプレイベント会見にも出席していた、GMのスポーツカーレースマネジャー、ローラ・ウォントロップ・クラウザーさんです。現在はコルベット1台のみを送り込んでいる状況で「わざわざ来日するんだ」と個人的には感心したのですが、来季からはキャデラックブランドでLMDhに参入しますから、いろいろと調整ごとも多いのでしょう。

 LMGTEアマのポールポジションを獲得、そしてこの後レースでも見事クラス優勝することになる、ベン・キーティングさん。こちらもインタビューしてきましたので(以下略)。

 2019年のWEC富士優勝トロフィー返還には、中嶋一貴TGR-E副会長も登場。

 その一貴さん、グリッドでは親子共演も実現(真ん中はアレックス・ブルツさん)。

 その悟さんは、教え子のロイック・デュバルさんと再会です。

 トロフィー返還もそうですが、『自衛隊ヘリから国旗(スタートフラッグ)を持った隊員が降下してくる』というのも、ル・マン24時間にならう演出と言えます。自衛隊機のホバリング、見事でしたねぇ。

 そんなわけで、セーフティカーもFCYもない、まったく荒れない6時間のレースとなりました。結果はご存じのとおり、トヨタ8号車が凱旋優勝。表彰台では平川亮選手がシャンパンまみれになっておりました。ル・マンと富士で勝つことがターゲットだったという平川選手は、レース後の囲み取材ではホッとした表情を見せていたのが印象的でした。

 決勝終了後、チームの撤収作業は意外と長いWEC。22時を過ぎても、パドックは“全開”で営業中でした。さすがにこの時間になると缶ビール片手に……というチームもありまして、プレスルームで作業している我々の耳に届くメカさんたちの会話のボリュームは、どんどん大きくなっていきます。立ち並ぶコンテナと機材の量を目の当たりにすると、『参戦台数を増やしたくても、物流のキャパシティ的な問題で限界がある』という事実を実感しますね。世界転戦、ほんとにお疲れ様です。

 というわけで、ずいぶん長くなってしまいましたこちらの取材後期的ブログ。最後までお読みいただき、ありがとうございました。まだまだ富士の現場で取材してきた掲載記事はありますので、どうぞお楽しみに!(頑張ります……汗)