2015年から2020年まで日本を拠点にしてスーパーGTとスーパーフォーミュラで活躍したニック・キャシディ。
その後ヨーロッパへ活動の拠点を移し、今季はエンビジョン・レーシングからフォーミュラE、レッドブル・アルファタウリ・AFコルセのフェラーリ488 GT3 EvoでDTMドイツ・ツーリングカー選手権、そして同じくAFコルセのフェラーリでWEC世界耐久選手権と、1シーズンに3つのシリーズを掛け持ち、非常に多忙な時間を過ごした。
■2勝したDTMで「チャンピオンになってみたい」
10月7~9日にドイツ・ホッケンハイムで開催されたDTM最終戦のレース1は、2度のセーフティカー導入や2箇所での多重クラッシュにより赤旗が降られ一時レースが中断されるなど、非常に荒れた展開となった。
キャシディはその多重クラッシュには直接巻き込まれなかったものの、クラッシュしたマシンを避けた直後に、炎を上げて飛び散ったポルシェのエンジンが彼のマシンのドライバーサイドを直撃するという衝撃的な災難に見舞われていた。
念のためメディカルセンターでレースドクターのチェックを受け、異常がないことが確認されて、ホッケンハイムにいた誰もがほっと胸をなでおろした。土曜日はそのままホテルで休養していたというキャシディは、レース2の行われる日曜日には元気な姿でサーキットへ登場。レース1でのクラッシュや、気になる来季について聞いた。
──大きな炎が上がったポルシェのエンジンが、あなたの車両の運転席側に当たっている映像を見ましたが、かなり衝撃的でした。
NC:リスタートしてからすぐに1コーナーを過ぎたところで数台のクラッシュが起きた。なぜかそのままレースが継続されて、メルセデス・スタンドの手前で何台かが絡まってクラッシュしているのが見えて、そこに入らないように避けたつもりが、煙で視界が悪かったんだ。運悪くクラッシュした衝撃でもぎ取れたSSRのポルシェの火を噴いたエンジンが僕に直撃してきて、本当にびっくりしたよ。
ピットに戻ってからすぐにメディカルセンターでレースドクターの精密検査を受けて、身体には異常がなかったので僕は大丈夫。いろんな人が心配してくれてありがたかったし、あれだけの衝撃を受けても僕は無事だったので、改めてフェラーリのGT3マシンの安全性の高さには感謝しかない。
(※キャシディはピットまで自力で戻ったが、ポルシェのエンジンが衝突した運転席側のドアが開かず、その時点では彼の身体のダメージの具合も分からなかったため、助手席側からメカニックらによって慎重に下ろされた模様)
──今季はフォーミュラE、DTM、WECと非常に多忙なシーズンでしたね。
NC:とても忙しかったのは事実だけれど、この多忙さとさまざまなレースを心から楽しんだシーズンだったし、レーシングドライバーとして新しい経験を多く積むことができて自分の視野がぐっと広がったと思う。むしろ、トラベルマネージメントの方が大変だったかもしれない。
フォーミュラEではシーズン序盤はあまりうまく行かなかったが、レースを重ねるにつれて強くなったことを実感した。
DTMではスパとレッドブルで優勝ができて何よりも嬉しかったし、まだ完璧ではないが、フェラーリのポテンシャルを引き出し、それをレースに活かせてきていると思う。フォーミュラEと重なった開幕戦のポルティマオとノリスリンクを欠場してしまい、デビューイヤーで2勝を挙げられたもののチャンピオンシップには届かなかったのが残念だけれど、このフィールドでチャンピオンになってみたい、とそう強く思った。
WECは他のふたりのドライバーと組むというまったく初めての経験となって新鮮だった。いままでに参戦したレースとはまったく違ったレギュレーションだけど、違うクラスのマシンが混走するスタイルはスーパーGTに近いし、あの感覚を思い出した。真横を走り去るプロトタイプを見て、いつかはハイパーカーをドライブしてみたいと思ったことは事実だけれど、WECデビューの学びの1年目は、むしろLMGTEアマクラスで良かったと思っている。
日本を卒業して1年目の今シーズンでは、フォーミュラEのニューヨーク、そしてDTMのスパとレッドブルリンクという2シリーズで勝てた事は大きな収穫だったし、もっともっと強くなりたいと改めて思った。
──あなたの活動の方向性のカギを握るひとり、レッドブルのドクター・ヘルムート・マルコがレッドブルリンクにいらしていましたね。彼とは今後のことなどをゆっくりと話す機会はあったのですか?
NC:面会する機会はとても短かったけど、レッドブルの本拠地で優勝し、ドクター・マルコの口から祝福のことばをもらえたのはとても光栄だった。
■元東京在住のキャシディが考える理想のFEコースとは?
──今年は3つのシリーズを掛け持ちしていたこともあり、DTMやWECのシリーズチャンピオン争いには実質的に届きませんでした。来年は挑戦するどこかのシリーズでチャンピオンを狙う気持ちはありますか?
NC:現時点では来季の活動で決定しているのは、エンビジョン・レーシングでフォーミュラEに継続参戦すること。まずはテストで走ってみてGen3の新マシンがどんな反応を示すのか、試してみなくてはならないけれど、もっとランキングの上を目指したいし、チャンピオン争いにも絡めるポジションにいたい。来季のフォーミュラEは新たなメーカーも加わり、マシンも新しくなるからとても楽しみにしている。
──フォーミュラE以外にはどのレースに出られそうですか? 来年もDTMであなたの活躍を観ることができるでしょうか?
NC:カレンダー次第でどうなるかは分からないんだけど、できればDTMは来年も参戦したいと強く願っているし、DTMドライバーの一員としてまた来年も戻り、ここで是非ともチャンピオン争いをしてみたい。
──来年はフェラーリのハイパーカーがWECにデビューします。DTMやWECではフェラーリドライバーとして活躍するあなたですが、来年はハイパーカーへチェンジする可能性はありますか? もしあなたがドライブするならば、アルファタウリカラーのハイパーカーにならないか期待してしまいます。
NC:来年は残念ながら、その機会はまだない。いつかそんな機会が訪れれば是非とも挑戦したい。
──ところで、先日東京都が2024年に東京でのフォーミュラE開催に向けた協定を締結しましたね。現時点では東京ビッグサイト周辺が開催地とされていますが、元東京在住のフォーミュラEドライバーとしては、どのエリアでのレースを希望しますか?
NC:う~ん、とても難しい! なぜなら、東京にはステキなエリアがたくさんあるから。交通規制などの問題があるから、どこでもレースができるわけではないのは理解しているけど、それらを抜きにして単に僕が選べるとしたら、たとえば代々木公園から原宿表参道を抜けたりするのもクールなロケーションだし、銀座、お台場、渋谷なんかもいいね。
なぜか六本木に住んでいたと誤解されることが多いけど(笑)、僕は品川や芝浦に住んでいたんだ。あのベイエリアもフォーミュラEのコースとしてはクールでいいかもね。本当にフォーミュラEが東京での開催が決まるなんて、嬉しくて待ち遠しくて仕方がないよ! コースが決まるまで、ワクワクしながら待っているよ。