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 8月以来、約4カ月ぶりの再開となった2022年WTCR世界ツーリングカー・カップ第8戦が、11月10~12日に初開催の地である中東のバーレーン・インターナショナル・サーキットで争われ、酷暑のナイトレースでBRCヒョンデN・スクアドラ・コルセのミケル・アズコナと僚友ノルベルト・ミケリスが躍動。レース1では選手権首位のアズコナが予選ポールポジションからミケリスを従え“ライト・トゥ・フラッグ”での1-2フィニッシュを達成し、続くレース2でも2019年王者ミケリスが復活の今季初優勝を飾るなど、ヒョンデ・エラントラN TCRがライバルを圧倒する速さを見せた。

 こちらも初開催イベントだったフランス・アルザス地方アノー・デュ・ハンでの1戦を前に、王者リンク&コー・シアンレーシングが「今季WTCRプログラムの即時中止」を決め、撤退の激震とその余波に揺れたシリーズは、9月に入って最終戦サウジアラビアを含む中東でのシーズンファイナル2戦を開催するとアナウンス。さらに先月には、今季限りでのWTCR終了と世界各国の人気イベントを指定する形態での『TCRワールドツアー』に移行するプランも発表した。

 そんな激動のシーズン終盤戦に際し、各陣営ともに来季を見据えた動きを活発化させ、ヒョンデ陣営のBRCレーシングは2019年、2020年にWTCR参戦経験を持つニッキー・キャッツバーグを招聘し、中東連戦で3台目のマシンを走らせると表明。

 同じくアウディ陣営のコムトゥユー・レーシングは、今季のTCRヨーロッパ・シリーズで初タイトルを獲得したフランコ・ジロラミと、その僚友ヴィクトル・ダヴィドフスキーを迎え、4台から6台へ拡充する大所帯となった。

「これはフランコにとって、我々が確信する彼の可能性を示す絶好の機会になる」と語ったのは、チームマネージャーを務めるフランソワ・ヴェルビスト。

「我々は彼と1年間、緊密に仕事をしてきたが、彼は最高かつ最も優れたドライバーとして、今季のTCRヨーロッパのタイトルに値すると感じている。本当に働き者でもあり、WTCRグリッドに彼の居場所があると信じている。チームとしても彼との物語を続けたいという思いがあり、世界レベルのシリーズに出場することは彼の野望でもあった。これを実現できたことを非常にうれしく思っているよ」

 同時にそのコムトゥユーは来季『TCRワールドツアー』へのコミットも表明し、ツアーを構成する9つのイベントで4台のアウディRS3 LMS 2を走らせる。

「そう、我々は新しいTCRワールドツアーで正式にアウディスポーツを代表する計画だ。カレンダーの9つのイベントに4台のクルマが参加するが、これは既存のチャンピオンシップの1戦を指定することになる。TCRヨーロッパでは来季も4台でタイトル防衛に挑む予定だから、その1戦にツアーが指定されれば最大で8台のアウディが参戦することになるね!」

WEC世界耐久選手権の併催イベントとして初開催された“WTCRレース・オブ・バーレーン”
WEC世界耐久選手権の併催イベントとして初開催された“WTCRレース・オブ・バーレーン”
FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRは、今回も最大となる40kgのコンペンセイション・ウエイトを搭載した
FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRは、今回も最大となる40kgのコンペンセイション・ウエイトを搭載した

■バーレーンでのWEC世界耐久選手権の併催イベントとしてWTCR開催

 その一方で、スペインのマニュファクチャラーであるクプラ陣営を代表するゼングー・モータースポーツは、この第8戦を前に「チーム内で進行中の問題」により、エースのロブ・ハフが終盤2戦を欠場することを発表。その時点でドライバーズランキング3位、WTCRトロフィーで首位に立っていたハフだが、クルマを走らせるのに必要なリソースが不足していることを理由に「他に選択肢がない」として、今季WTCRプログラムの早期終了を余儀なくされた。

「週末を前にWTCRからの撤退を余儀なくされ、この決断をみんなと共有しなくてはならないことが非常に残念だ」と続けた2012年WTCC世界ツーリングカー選手権王者でもあるハフ。

「もちろん、僕にとっても簡単な決断ではなかった。信じられないほど素晴らしいシーズンを過ごし、現在はランキングの順位でも3位に座り、インディペンデント王者の権利を有している。だがチーム内での問題が続いているため、それが唯一の選択肢になってしまったんだ」

「今週末はクルマを走らせるのに必要なリソースがない。悲しいことに、僕はエンジニアとメカニックのチームとともに、最も重要なもののを用意できなかったんだ。これを念頭に置いて、撤退する以外に選択肢はなかったよ。世界タイトルをかけて戦うことができないことに非常に失望しているし、ここに来る前にあらゆる選択肢を使い果たした。今季関わったすべての人のハードワークに感謝しているし、終盤2戦でのチームの幸運を祈っている」

 これを受けWTCRでのクプラ・レオン・コンペティションTCRのシートをベンス・ボルティズに譲った格好のハフは、今月20日に開催されるTCRアジア・シリーズ最大の1戦、マカオでのイベントに目を向け、ここでふたたび『MG6 XパワーTCR』をドライブすることもアナウンスされている。

 こうして数多くの動きがあるなか再開したWTCRは、WEC世界耐久選手権の併催イベントとして初開催“WTCRレース・オブ・バーレーン”を実施。国際サーキットの15のコーナーを含むフルコース、5.412kmのグランプリ・サーキット・レイアウトが使用された。

 そのオープニングプラクティスから前戦レース1勝者のナサニエル・ベルトン(コムトゥユー・DHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が首位に立ち、アウディが1-2発進を決めると、今回もライバルより50〜60kgも重いコンペンセイション・ウエイトを搭載するホンダ・シビック勢が気を吐き、FP2ではエステバン・グエリエリ(ALL-INKL.COM ・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が僚友のネストール・ジロラミを従えトップを奪い返す。

 しかし予選で最前列を射止めたのはヒョンデのアズコナで、選手権を争うジロラミを撃破しポール獲得でポイントも加算。リードを37点に広げてサクヒールのレース1に挑むこととなった。

レース1はBRCヒョンデN・スクアドラ・コルセが1-2フィニッシュ。前戦レース1勝者のナサニエル・ベルトン(コムトゥユー・DHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が3位に入った
レース1はBRCヒョンデN・スクアドラ・コルセが1-2フィニッシュ。前戦レース1勝者のナサニエル・ベルトン(コムトゥユー・DHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が3位に入った
ノルベルト・ミケリスも、レース2でエステバン・グエリエリ(ALL-INKL.COM ・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を仕留める
ノルベルト・ミケリスも、レース2でエステバン・グエリエリ(ALL-INKL.COM ・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を仕留める

■レース1ではアズコナ、レース2ではミケリスが優勝しヒョンデ勢がライバルを圧倒

 現地時間金曜19時過ぎに始まった勝負は、各ドライバーともナイトレースにもかかわらず、暑さによるタイヤのデグラデーションの問題に苦しむなか、アズコナが危なげなく今季4勝目を獲得。背後にはジロラミのシビックを4位に追いやり、今季不調の続いてきたミケリスが続き、BRCレーシングが1-2を獲得した。

「夜のコンディションでレースをしたにもかかわらず、路面温度が高くすぐにフロントの大きな劣化を感じ始めた」と説明したアズコナ。「最初からベストを尽くそうとしたが、すぐにナット(ベルトン)のアウディが苦しんでいることに気づいた。ターン1で首位を守ったのがレースの鍵だったと思う」

「この時点からクルマをうまくコントロールしようとし、大きな縁石を避け、タイヤに問題が起きないよう努めた。室内も高温で非常にタフだったよ。ノルビ(ミケリス)も2位になったのはとても良いことだし、明日の午前中はより気温が高いから、もっと難しいと思う。今日苦しんでいたら、明日はもっと大変になるだろうね」

 そう予測したアズコナはリバースグリッド戦で4位まで挽回するなか、混乱に乗じて首位浮上を果たしたのが僚友のミケリスで、7番手からスタートを切ったエラントラN TCRはオープニングのターン4で発生したジル・マグナス(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)、メディ・ベナーニ(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)、そしてフランコのアウディ陣営内同士討ちにも助けられ、早々にグエリエリの背後に到達。5周目にはシビックを抜き去り首位に浮上すると、そのままリードを広げてチェッカーを受け、待望の今季初優勝を手にした。

「ただただ、ファンタスティックだ。ここまで厳しいシーズンを過ごした後だと、夢のようにさえ感じるね」と喜びを語ったミケリス。「幸運にも良いスタートを切り、この時点で数台パスできていたことがターン4でのアクシデントを回避することに繋がった。目の前のホンダもプッシュしていたが、僕自身タイヤに問題が生じ始めていそうだったから、チャンスが来るのをじっと待つことにしたんだ」

「簡単だったとは言いたくないが、追い抜きを成功させたのは必然だった。それほど良いクルマを手にしていたからね。最終的には自分自身に非常に満足しているよ」

 この結果ミケリスもランキングで5位まで回復し、僚友アズコナは297点としてランク2位のネストールに対し60点差を構築することに。続く第9戦は2018年から始まったWTCRとしても“本当にラスト”の最終戦となり、11月25~27日に初上陸のサウジアラビア、ジェッダ・コーニッシュ市街地サーキットでナイトレースが実施される。

「週末全体を通じて、僕らのクルマには決定的にスピードが欠けていた」とネストール・ジロラミ
「週末全体を通じて、僕らのクルマには決定的にスピードが欠けていた」とネストール・ジロラミ
ミケリスもランキングで5位まで回復し、僚友アズコナは297点としてランク2位のネストールに対し60点差を構築することに
ミケリスもランキングで5位まで回復し、僚友アズコナは297点としてランク2位のネストールに対し60点差を構築することに