アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから北に約320kmのエントレリオス州、アウトドローモ・コンセプシオン・デル・ウルグアイで争われた同国を代表するツーリングカー選手権、新生TC2000(旧スーパーTC2000)の最終第12戦は、早朝からの雨で伏兵が躍動したファイナルで、昨季王者シボレーYPFチームのアグスティン・カナピノ(シボレーYPFクルーズ)が最終ラップの大逆転劇で勝利を収めたかに見えた。
しかしコミッショナーは「競合に対する危険な動き」としてトップチェッカーの追い抜きを断じ、1ポジション降格のペナルティを課したため、代わって2位フィニッシュを果たしたTOYOTA GAZOO Racing YPFインフィニアのジュリアン・サンテロ(トヨタ・カローラSTC2000)が勝利を手にしている。
今季中盤には長年にわたって袂を分かっていた旧TC2000との和解が成立し、来季以降のシリーズ統合に向けお互いの選手権を併催しながらも、同シリーズもSTC2000改め『TC2000』として再出発を切っていた。
さらに前戦オスカー・カバレンのレースウイークには、シボレー、ルノー、トヨタ、ホンダなどファクトリー参戦する各陣営の首脳らが集い、2023年以降もシリーズ継続を支持する意思を全会一致で確認。そのうえで来季を移行期間と位置づけ、将来的には「SUVをベースとした競技車両の技術開発と製造」に取り組む方針も示した。
こうしてTC2000としては初開催となるエントレリオス州のトラックで、11月12日~13日に最終戦を迎えたシリーズだが、チャンピオンシップはすでに前戦の結果によりアクシオン・エナジー・スポーツSTC2000陣営のエース、2019年王者リオネル・ペーニャ(ルノー・フルーエンスGT)が自身2度目のシリーズ制覇を達成。残る焦点はチーム&マニュファクチャラーズタイトルの行方のみとなっていた。
そんなレースウイークを前に、ホンダ陣営のプーマ・エナジー・ホンダ・レーシングは来季に向けた体制発表も実施し、改めてTC2000への参戦継続とシリーズ2冠を誇るファクンド・アルドゥソ(ホンダ・シビックSTC2000)の残留を発表。さらに現在はプライベーターとしてシトロエンC4ラウンジを走らせるFDCモータースポーツとの技術提携というジョイント体制もアナウンスした。
「この体制発表会は、プロジェクトを正式なものにする可能性があるという点で非常に前向きなものだ。これからホンダとの新たな挑戦が始まり、設定した目標を達成するために努力しなければならないんだからね」と挨拶したのは、チームオーナーを務めるロベルト・ヴァッレ。
一方、ホンダ現地法人のコマーシャルディレクターであるビクトル・プルヴォアも「このアナウンスにより、ホンダとしてもTC2000におけるブランドの継続性が強化される」と、今後のSUV投入を含めてその意義を強調した。
「ホンダはこれらのプロジェクトに関与する必要があることを理解しており、それが製品を一般に公開し、認知を広める最良の手段だ。競合する他ブランドとともに、競技に適用されるテクノロジーがブランドの独自性を担保し、その技術力を特定できる要素を持つカテゴリーを大きく発展させていくことを願っている。ここが我々の開発拠点であり、引き続きロベルト・ヴァッレとファクンド・アルドゥソへのコミットメントとサポートを提供していく」
■日曜決勝は雨のなか序盤から波乱のレースが繰り広げられる
こうして始まった今季最後の週末は、土曜午後のフリープラクティスでグループ分けを実施し、バッジAではシボレーのカナピノ以下、新王者ペーニャ、トヨタのサンテロが続くトップ3に。しかし続くバッジBではそれらのタイムを凌ぎ、今季後半戦はTCRカテゴリーでも活躍を演じた若干17歳、イグナシオ・モンテネグロ(ルノー・フルーエンスGT)が総合トップに躍り出る。
そのまま土曜現地17時を過ぎて始まった予選では、その顔ぶれがそのままポールポジション争奪戦を繰り広げ、王座剥奪の雪辱と言わんばかりに意地を見せたカナピノが、キャリア通算33回目の最前列を獲得。フロントロウにはその王座奪還を果たしたペーニャが並んで直接対決の構図を整え、2列目にはルノーのモンテネグロ、トヨタのサンテロが続くグリッドとなった。
しかし明けた日曜は決勝スタート早々に雨が降り、各陣営が入り乱れてピットストップへ飛び込むなど、序盤戦から波乱の要素を含んだ変化に富むレースが繰り広げられる。
ここで路面の水量などを的確に判断して迅速な決断を示したシボレーYPFチームは、後続に反応するのではなくポールポジションながら能動的戦略でカナピノを呼び戻すと、困難なトラック上でも上位ポジションを守ってコース復帰する。
しかし、その上位勢をも上回ったのが14番グリッド発進だった“伏兵”ファクンド・アルドリゲッティ(フィアット・クロノスSTC2000)で、プライベーターであるFSモータースポーツの29号車はワークスカーのシボレーとTOYOTA GAZOO Racingアルゼンティーナのカローラに乗るサンテロを抑え込み、ファイナルラップまで首位を快走してみせる。
難しい条件下でプレッシャーに耐え続けたアルドリゲッティだったが、背後でカローラとの壮絶なサイド・バイ・サイドを繰り広げたカナピノが迫り、チェッカー目前のところで惜しくも陥落。2番手サンテロとその背後にいたペーニャにもパスされ、4位でフィニッシュラインを通過する結末となった。
さらにチェッカー後には、スポーツコミッショナーから最終ラップの肉弾戦に際するカナピノの動きが「審議対象となった」ことが示されると、サンテロに対する危険な操作に対してカナピノに1ポジションの降格が言い渡され、シリーズ最終戦ウイナーの称号はサンテロの手に渡ることに。
この結果、ルノー陣営のアクシオン・エナジー・スポーツSTC2000が606ポイントでチームタイトルを勝ち獲り、TOYOTA GAZOO Racing YPFインフィニアが490ポイント、同シボレーYPFチームが469ポイントで続く結果に。そしてマニュファクチャラーズタイトルでも512ポイントとしたルノーがチャンピオンに輝き、同496ポイントのトヨタ、469ポイントのシボレーが続き、ルノーが主要3部門を制覇するシーズンとなった。