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 ここまでマシュー・バキシビエールベン・キーティングフェルディナンド・ハプスブルク、そしてジョシュ・ピアソンと4人のWECドライバーたちを紹介してきたこのコーナーだが、今回はふたりの選手にご登場いただこう。

 まずひとり目は現在、LMGTEプロクラスでポルシェ91号車をドライブしているジャンマリア・ブルーニ。WECファミリーのイギリス人たちからは、”ジミー・ブルーニ”と呼ばれている。

 元F1ドライバーでもある彼は、意外(?)と若い41歳。そんなブルーニは、今年ル・マンでリヒャルト・リエツ、フレデリック・マコウィッキとともにクラス優勝を飾っている。改めてその優勝について聞いてみた。

LMGTEプロを制した91号車ポルシェ911 RSR-19のジャンマリア・ブルーニ、フレデリック・マコウィッキ、リヒャルト・リエツ
2022年ル・マン24時間レースのLMGTEプロを制した91号車ポルシェ911 RSR-19のジャンマリア・ブルーニ、フレデリック・マコウィッキ、リヒャルト・リエツ

「あの優勝は素晴らしい気分だったよ。ようやくホッとした。これまで、僕とリッチー、フレッドのトリオは、何年もル・マンにチャレンジしてきて、2位になったのが2回。ずっと僕らは最後のステップを逃してきたからね」

「だけど、優勝をようやく達成できた。それだけでなく、今年はLMGTEプロクラス最後の年だったから、特別だったよ。僕自身は、フェラーリで3回クラス優勝しているけど、ポルシェとも優勝を分かち合うことができて誇らしい。これ以上のことは望みようがないよね」

「表彰台の一番上からの景色は素晴らしかったよ。特に、今年はサーキットにファンが(制限なく)戻ってきたから。もちろん、たくさんセルフィーも撮った(笑)。レース後はチームメイトや家族とたくさんお祝いしたんだ」

 富士では、残念ながら優勝を飾ることができなかった91号車。しかし、GTEプロクラスのポルシェは、フェラーリやコルベットとともに日本で最後となるレースを展開してくれた。

 ところで、ブルーニはこのクラスの顔として長年戦ってきたわけだが、カテゴリーがなくなってしまう来年以降は、どんな活動をしたいと望んでいるのだろうか?

「それはまだ固まっていないんだよね」とブルーニ。

「でも、ポルシェのLMDhのカスタマーカーに乗れればいいなって思っているんだ。まだ何も決まっていないけど。より上のカテゴリーで自分のキャリアを終えられればいいと思っているよ」

「今までF1を含めてあらゆるカテゴリーで走ってきたし、LMDhでも走りたい。もちろん、自分に速さがなくなったら、その時は辞めると思うけど、まだ僕は41歳だからね。僕とアンドレ(・ロッテラー)と(フェルナンド・)アロンソは、みんな同じ年にカートを始めた幼馴染なんだ。アンドレとは彼が日本に来る前、フォーミュラ・ルノーやF3でチームメイトだったし、まだまだ走ることはできるはずだよ」

2022年WEC第5戦で富士スピードウェイを走る91号車ポルシェ911 RSR-19
2022年WEC第5戦で富士スピードウェイを走る91号車ポルシェ911 RSR-19

■シミュレーターもコース下見もせずに富士優勝

 続いて紹介するのは、ヨーロッパのメーカー関係者やメディア関係者から「いつも眠そうな顔をしている」と言われているLMP2クラス、チームWRTのロビン・フラインス。言われてみれば確かに……。だが、我々取材班にとっては3年前、DTMのノリスリンク戦に取材に行き、出場全ドライバーに『スーパーGTクイズ』を出題した際、フラインスは最も笑える答えを連発してくれた“キャラ最高”のドライバーだ。

 久々の再会ということで、木曜夕方に会うなりまずは「我々のこと、覚えてる?」と切り出すと、「いや、全然」という見事なすっとぼけっぷり。いろいろと話しているうちに思い出してはくれたが……。

 さて、そのフラインスに、まずは初めて訪れた富士の印象を聞こう。が、しかし。

「来る前にシミュレーターもやっていないし、(木曜午後の)トラックウォークも行ってない」だと? 他のドライバーたちはもう、トラックウォークには行った後。まったくの初見で練習走行に臨むというフラインス、やっぱり少し“天然”なのか、それとも大物なのか……。

 それでも、富士のコースをスケッチブックに描いてもらうと、これがまぁまぁのデキ。にしても、添えられたサインの簡単なこと。ロビンのRとフラインスのFしか書いてない。その理由を尋ねると、「僕は人生をシンプルにしておきたいんだ」。

ヨーロッパ出発時の格好のままサーキット入りし、取材に対応してくれたロビン・フラインス
ヨーロッパ出発時の格好のままサーキット入りし、取材に対応してくれたロビン・フラインス

 しかも初来日したフラインスは、いかにも彼らしく(?)いきなりロストバゲージに見舞われていた。

 取材の時も、ヨーロッパを出る時に身につけていたTシャツと短パン。替えの下着も持っていない状態だった。そんなわけで、同じチームのフェルディナンド・ハプスブルクにも「臭いんだよ」と言われる始末。取材の後には「買い物に行かなきゃ」と焦っていた。月曜日早朝には日本を発つということだったけど、帰る前に荷物が見つかったかどうかは気になるところだ。

 一方、取材班はそんな状況にも容赦なく、とにかく今後のことを聞かねばと、これまでDTM、LMP2、フォーミュラE、GT3などさまざまなカテゴリーで走ってきた彼に、将来の目標を聞いてみた。とくに現在はWRTで走っているということもあって、BMWのLMDhに乗るのかどうかが興味の中心だ。

「フォーミュラEに関しては、これまで6年間ほど続けているけど、来年も出場する予定なんだよね。LMDhに関しては、もちろんBMWと話はしているよ。その他のマニュファクチャラーとも話している。ル・マン24時間は、僕の年間カレンダーの中でも、最も大きなイベントのひとつだし、そりゃあ勝ちたい。僕は自分が出ているカテゴリーでは、全部勝ちたいんだ」

 トラックウォークすらしなかった初走行の富士でも、見事にクラス優勝をさらっていったわけで、実力は充分。来年以降の彼には、その”一風変わった”言動も含めて注目だ。

2022年WEC第5戦富士 LMP2クラスを制したWRT31号車のドリス・ファントール、ショーン・ゲラエル、ロビン・フラインス
2022年WEC第5戦富士 LMP2クラスを制したWRT31号車のドリス・ファントール、ショーン・ゲラエル、ロビン・フラインス