HRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)は、1982年に設立されたホンダのレース専門会社だ。これまでは二輪に特化していたが、2022年の4月から四輪も含めた総合的なモータースポーツ活動、開発組織として生まれ変わった。
2021年までF1パワーユニット開発の陣頭指揮を取ってきたエンジニアの浅木泰昭は、新生HRCでは四輪開発部門のトップに就任した。ホンダは公にはF1から撤退した。しかし、レッドブルとの協力関係はいっそう緊密になったように見える。
今季となる2022年シーズンも4戦を残して第18戦日本GPでマックス・フェルスタッペンのドライバーズタイトル連覇を決めたレッドブルは、ホンダへの感謝を真っ先に表明し、日本GPの表彰台に浅木を上げた。その浅木への前後編インタビューとして、まずは今季の戦いぶり、そしてレッドブルとの関係深化について聞いた。
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──今季は何度かトラブルに見舞われましたが、その対応はうまくできていますか?
浅木泰昭HRC四輪開発部長(以下、浅木部長):ホンダといいますか、レッドブル・パワートレインズに限らず、3年間開発が凍結されるためパワーアップ目的の開発は認められません。ですので、今シーズンまでは信頼性よりもパフォーマンスに重点を置き、追って信頼性改善を行うといったような算段で、各メーカーは2022年のパワーユニットを投入してきたと思います。
──トラブルが発生したら、その都度対処するというスタンスですね。
浅木部長:あくまで『他メーカーが同意したら』という条件付きですが、信頼性由来のアップデートは可能です。そのなかで、いかにパワーを出しつつ、壊れないようにするためにはどうするか。そういった競争を今年はしていると思います。
──昨年でしたら、ここまで不具合が出る前に食い止められていたはず、というような事例もありましたか?
浅木部長:そうですね。テストベンチの稼働規制などもありますので、やみくもにテストをしていると時間が足りなくなって最後に何もできなくなってしまいます。こういったレギュレーションということもあり、他メーカーも信頼性の検証に苦労しているという状況になっているのだと思います。
──2026年以降、ホンダがF1をどうするのか気になるところですが、次世代パワーユニットを見据えた基礎研究などは続けているのでしょうか?
浅木部長:2022年、研究所(本田技術研究所)からHRCに変わりました。これまでの研究所は本田技研工業から委託を受けた研究を行っていました。ですので、F1の活動を終了すれば、当然ほかの研究を行うように委託されます。これまでもF1活動終了のたび、人もノウハウも施設も全部消え、また新たにゼロからスタートということを繰り返してきました。HRCは、そうではない関係性を本田技研工業との間に持つレース会社であり、そこに今年は四輪部門を組み込んだということです。レース全般の継続研究はしてもいい。レースの委託は受けています。従来の研究所ではないということは、そういったことです。
──それを見据えての新生HRCだったと。
浅木部長:私はそういった理解です。もちろんそれだけではなく、研究所は基本的に商品化を前提にした研究開発を行うので、そうでないものを研究することは、やはり異質なわけです。一方で商品との連携を考えるという意味でも、たとえばクルマのスポーツパーツ、場合によってはスポーツカーを売ることだって定款上は可能です。今までの研究所ではそれはできませんでした。研究所は自分で商品を作って売ることはできません。パーツにしても何にしても、本田技研工業から売らないといけません。つまり、レースと商品の結びつきもHRCに移行することでできるようにしたかった。二輪がすでにやっているようにです。そのふたつです。
──2026年以降のF1パワーユニットの新レギュレーションでは、電力の割合が一気に増えます。昨年まで電力関係はイギリスのミルトンキーンズが担当していましたが、彼らの大部分はレッドブル・パワートレインズに移籍したと聞いています。HRCでの今後の研究開発に支障はないのでしょうか?
浅木部長:駐在者もイギリスに多く行っていましたが、彼らは日本に戻っています。ただ、実際に手を動かしてくれる現場のスタッフ、これは足らなくなるかもしれません。構想を練ったり、研究開発に携るエンジニアは大丈夫です。
──スタッフの養成には何年も時間がかかります。
浅木部長:私もボーっと手をこまねいているわけにいきませんので、その部分は考えています。それは単純にレースのためだけではなく、ホンダはロケットもやれば、『Honda eVTOL』という大きなドローンのような空のモビリティの開発も行っています。そういった分野にも電力関係のスタッフは必要な人材なのです。
(後編に続く)