2022年NASCARカップシリーズ第34戦『ディキシー・ウォッカ400』が、10月22~23日にマイアミ・スピードウェイで開催され、前戦“場外乱闘”の当事者として不名誉な注目を浴びた現王者カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が快走を披露し、267ラップ中199周をリードする展開に。
全ステージ勝利の週末完全制覇を達成したラーソンにとって、今季3勝目とホームステッドでの初優勝を獲得したのに加え、プレーオフ“ラウンド・オブ8”の2戦目となった週末に、前ステージ敗退のチャンピオンが記録したこの勝利は、ここまで8戦が開催されたプレーオフにおける“非選出”ドライバーによる5勝目ともなっている。
ラスベガスで開催された前週第33戦『South Point 400』において、序盤の95周目に“感情的なインシデント”を経験したラーソンとダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)だが、その起因となったウォレスJr.は「1戦出場停止」の重い処分を受け、その代役として今季もNASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズで活躍を演じ、同エクスフィニティ・シリーズでも好調さを維持するジョン-ハンター・ネメチェクが起用された。
その45号車カムリをドライブしたネメチェクは、土曜プラクティス最初のグループでカップシリーズのセッションに繰り出すと、時速167.188マイル(32.299秒)を記録して全体最速タイムをマーク。トヨタ陣営の代打起用に応え、全力アピールに成功した。
迎えた午後の予選では、同じく前週のインシデントで『もらい事故』によるリタイアを喫していた“プレーオフ”ドライバーのクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が気を吐いたが、その20号車カムリを2番手に退けたのは、強豪HMSの24号車をドライブするウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)で、今季初のポールポジションを奪取。最後から2番目のアタックで最速をマークしたバイロンが、自身カップ通算8度目のポールウイナーに輝いた。
「本当にクールだ! 僕らのクルーはここ数週間、予選トリムとその構築において良い仕事をしてきた。夏場は間違いなく予選で苦労したから、その改善に取り組みたいと考えてきたんだ。少しルーズな感覚もあったけど、ターンからの良い脱出ができたみたいで最高の成果だね」と喜びを語ったバイロン。
■211周目のコーションからレースの流れが変わる展開に
その効果はHMS陣営全体に波及し、日曜決勝は序盤からシボレー・カマロZL1が主導権を握る展開となり、早くも27周目には5番手発進だったラーソンがバイロンからリードラップを引き継いでいく。一方、31周目には右フロントに異変が生じたか、カップ・デビュー戦ネメチェクのカムリがターン2でスピンを喫し、ここで最初のコーションが発生する。
ステージ2に向けてもラーソン&バイロンが隊列を率いるなか、トヨタ陣営からはマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が喰い下がり、この後のレース全体を通じてHMS艦隊に勝負を挑む構図に。
その161周目にはプレーオフ・ドライバーのチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)がウォールの餌食となり、明けた最終ステージ3は終盤に向けハンドリング悪化に苦しんだバイロンが後退し、フロントロウから並んで勝負に向かったラーソンとトゥルーエクスJr.の一騎打ちに。
残り60周でアンダーグリーンのピットへ向かったバイロンが、サイン間違いでバックを強いられ、再スタートでストールを喫するなど大幅なタイムロスを喫するなか、終盤の二度のコーションがレースの流れを変える。
まず、ピット作業を終えたライアン・ブレイニー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が211周目にアクセスロードでスピンを喫すると、ルーティンを遅らせていたラーソンがこのコーションを利用してピットレーンへ。本コース上ではすでにグリーンフラッグ下で作業を終えていたトゥルーエクスJr.とロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)がリードを引き継いでいく。
しかし残り23周となる246周目で、今度はタイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)がルーズになり、インフィールド側ウォールに“正面衝突”してマシンを大破させると、ここで最後のアンダーイエローに。するとピットレーンへとなだれ込んだ『優勝争い』に思わぬドラマが発生する。
「僕はちょうど(先頭を行く)彼の後ろを走っていた。彼(トゥルーエクスJr.)は激しくブレーキを掛けながら左にステアした。そこで僕は彼の後ろにぶつかったんだ」と、ファストレーンでの接触劇について説明したラーソン。
「僕のチームは『彼がボックス側に移るのが遅かった』と言っていたが、それが僕のせいだったとしたら申し訳ない。ここは西日が直接当たるし、汚れたフロントウインドウではストールの状況が判断しにくいんだ。でも彼は間違いなく僕が倒さなければならなかった相手だし、最後のロングランも本当に良かったからね」と続けたラーソン。
■勝利を飾るも「まだ終わりではない」と気を引き締める王者ラーソン
こうして右リヤをヒットされた19号車カムリは錐揉み状態でスピンしながら、進行方向とは逆向きに作業エリアに滑り込み、19番手からのリスタートを強いられることに。一方、もうひとりの競合だったデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)に先んじて5号車カマロを送り出したHMS陣営は、ここで勝利を確信。残り17周のリスタートで、背後のチャスティンやA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)らを退け、すでにタイトル防衛権を失っているラーソンが今季3勝目を手にした。
「間違いなく、この1年を通して最高の走りだった。何度か壁にぶつかったが、それでもスピードを上げることができた。数週間後にはフェニックスでチームのタイトルを争うことになるし、技術的にはまだ終わりではないんだ。個人の栄誉よりチームとして勝つことは、僕にとってもっと意味があるからね」と、喜びを表現しつつも気を引き締める王者ラーソン。
その一方、19番手からのチャージで6位に滑り込んだトゥルーエクスJr.は「確かに、あの日差しの状況でフロントガラス越しに見るのは本当に難しかった。僕自身5号車(ラーソン)の進路から逸れる前に速度を落としてしまった。誰も怪我をしなかったことにホッとしている」と自らの過失を認める言葉を残した。
同じく最後のリスタートで勝利を争ったハムリンは、序盤にルーズとなった場面でボディ前後の右サイドを激しくヒットしながら、クラッシュ寸前でコントロールを取り戻していた際のダメージも影響したか、残り4周で再びウォールにタッチして失速。トゥルーエクスJr.の背後7位でレースを終えている。
併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズの第31戦は、プレーオフ突入以降も好調を維持する23歳のノア・グラグソン(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)が、タイトル争いの直接的ライバルであるタイ・ギブス(ジョー・ギブス・・レーシング/トヨタGRスープラ)を降して今季8勝目を獲得。
同じく併催のNASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズの第22戦は、ゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)を撃破した28歳のタイ・マジェスティック(ソースポーツ・レーシング/トヨタ・タンドラTRD-Pro)が、プレーオフ2勝目をマーク。今季2台体制で挑んできた服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライゼスのトヨタ・タンドラTRD-Proは、16号車タイラー・アンクラムが11位、チェイス・パーディの61号車が16位となっている。