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 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の最後を飾るのは、超高速サーキットのモンツァを舞台に争われるイタリアGPだ。ハースはモンツァ仕様のパッケージを持ち込んでいないため、苦戦を覚悟していたが、フリー走行を十分に走れなかったミック・シューマッハーが入賞には届かないながらも素晴らしいリカバリーを見せた。そんなイタリアGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

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2022年F1第16戦イタリアGP
#47 ミック・シューマッハー 予選20番手/決勝12位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選19番手/決勝16位

 3連戦の最後、イタリアGPではFP1にアントニオ・ジョビナッツィを起用しました。アントニオについては、一発の速さなどは心配していなくて、むしろクラッシュせずに安定して走ってくれるかどうかという方が気になっていたので木曜にそのような話もしました。そういう意味ではよくやってくれたと思います。最低限やってほしかったことをしっかりとこなしてくれました。

 僕が個人的に興味深いなと思っていたのは、アントニオが2022年仕様のF1マシンに乗るのは今回が初めてだったので、ポーパシングなどにどういう反応をするのかということについてです。アントニオは最初のランを終えてすぐに、あまりにもクルマが揺れるので「見えない」「ブレーキングポイントを掴めない」とショックを受けていて、難しいと言っていました。データ上同じような状態で走っているケビンは「バンプでクルマが跳ねるけど問題ない」と、ここまで15戦も乗っているので慣れてしまっているんですね。

ギュンター・シュタイナー代表&アントニオ・ジョビナッツィ(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGPフリー走行1回目 ギュンター・シュタイナー代表&アントニオ・ジョビナッツィ(ハース)
アントニオ・ジョビナッツィ(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGPフリー走行1回目 アントニオ・ジョビナッツィ(ハース)

 ただFP2でミックが乗ると、彼も「ポーパシングでクルマが跳ねる」というコメントをしていました。今回はレズモ2とアスカリシケインの間にある路面のバンプなどにクルマがかなり反応していたので、普段よりも一時的なショックがあったと思います。通常の他のサーキットで見られるポーパシングとはまた少し違ったものでした。

 そのミックはFP2でECUのトラブルが発生したため、走行は9周のみに終わってしまいました。ECUの取り付け方に問題があって、クルマが走った振動で電気系統が何も動かなくなってしまったのです。これではスペックの問題ではなくて人的エラーなので、ミックには本当に申し訳ないです。

 さらにミック車のトラブルは続きました。金曜の夜にフェラーリ側のメカニックがミックのエンジンを乗せ替えた際にクラッチのセッティングが間違っていたため、それを土曜日になってどうにかしようと作業をしていたのですが、その時に彼らが手順をショートカットしていました。きちんとした手順を踏まず、無理にクラッチを磨耗させてなんとかしようとしていたところでオーバーヒートしてしまい、最終的にクラッチを交換する羽目に。なんとかFP3の残り時間10分というところでコースに出ることができましたが、タイム計測ができたのはわずか2周くらいです。

 ですので、ミックは予選で最下位に終わりましたが、それは走らせてあげられなかった僕たちのせいです。ミックは予選中にもまだブレーキングポイントを探っている段階で、まったく持っている性能を発揮できていません。またこれはチームで事前に決めていたことですが、僕たちはモンツァ仕様のパッケージをあえて用意せずにスパ仕様で走ることにしていたので、そもそもモンツァでの競争力はありませんでした。それに加えてここでは最高速からきついブレーキングが求められる難しさもあるので、Q1の最後にスモークをあげるシーンも見られましたが、やはりそれも走行不足が大元の原因なのでミックをあまり責められません。

ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGP ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)

 一方のケビンは今回全然よくなかったですね。予選ではソフトタイヤを2セット使って、1セット目のタイムが1分22秒9。そこからミックに対してコンマ5〜6秒はつけなければいけないところで、2セット目で実際にタイムを出したものの、2回ともトラックリミット違反で抹消になりました。どちらもレズモふたつ目の出口で外に膨らんだことによる違反です。確かに白線の外側の縁石も白で境界が見えにくいというのはありますが、こういうことはフリー走行でどこまでプッシュできるのか試すもので、予選で試すことではありません。タイムが抹消されなければ1分22秒4で16番手でした。Q1敗退には変わりありませんが、スパ仕様のこのクルマで16番手なら妥当な結果だったはずです。

■セーフティカーランのままレースは終了。またも議論を呼んだレース運営

 ミックの決勝レースについては評価していいと思っています。FP2でのハイフューエルランでは、ウチのクルマでは最高速が315km/hほどしか出ていなかったのに、アルファタウリやアルファロメオなど中団勢のチームは330km/h出ていたので、レースでは誰も抜けずに抜かれるだけだと思っていました。

 ペースに苦しんでいたケビンを抜いたミックは安定して走っていて、後ろにいたバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)にアンダーカットされないかどうかを心配していましたが、その後ふたりの差は4秒まで開きました。第2スティントでソフトを履くためにレース後半まで引っ張ることも問題なかったです。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGP ミック・シューマッハー(ハース)

 さらにミックは、ソフトタイヤを履いてから最高速に差のあるランス・ストロール(アストンマーティン)をタイヤの差を活かして抜きました。その前にいたニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)はより直線で速かったので2周かかりましたがオーバーテイクに成功、次に角田裕毅(アルファタウリ)も抜きました。ソフトタイヤが上手く機能しており、ペースがあったのでこのままいけばピエール・ガスリー(アルファタウリ)に詰まっている数台、少なくともエステバン・オコン(アルピーヌ)のあたりまでは抜けると思っていました。他がハードで苦しんでいたところ、ミックはソフトで本当にいいペースで走ってくれました。

 レース終盤、リカルドが止まったのでSCが出ました。この時ミックは12番手を走っていて、前のオコンと周冠宇(アルファロメオ)、ガスリーがハード、ニック・デ・フリース(ウイリアムズ)がミディアムタイヤだったので、この4台がリスタートで苦労するのが目に見えていました。残り周回を数を考えてもピットインすることはないでしょうし(ピットインした場合はミックの後ろになります)、ミックのタイヤは悪い状態ではなかったので、再スタートでオーバーテイク絶対にできると思ってレース再開を待っていたのですが、なんとSCが出たままレース終了となりました。

2022年F1第16戦イタリアGP決勝 ジョージ・ラッセル(メルセデス)の前に入ったセーフティカー
2022年F1第16戦イタリアGP決勝 ジョージ・ラッセル(メルセデス)の前に入ったセーフティカー

 SCの運用については昨年の最終戦でも問題になりましたが、どうして今回もあのような形で終わったのか、レースコントロールが何をやっているのか不満が残ります。マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)がピットインしたので、SCはジョージ・ラッセル(メルセデス)の前に入りましたが、SCは何故先頭のフェルスタッペンの前で入らなかったのか。SCの後ろにいたクルマを前に出さなかったのも、規則にあっていません。

 リカルドのクルマの撤去にも時間がかかりました。フェルスタッペンがピットストレートに戻ってきた時点で残り5周あったのに、最後の1周でリスタートできないなんてありえないと思います。見ているファンの方々もかわいそうでしたね。F1は世界選手権です。国際的な大企業も凄いお金をかけて参戦しています。みんなそれ相応のレベルで戦っているんです。それがレースコントロールとかガバナンスがうまく機能していないせいでアマチュアの大会かと思うことがあります。みんな世界選手権レベルでやっていなければいけないのに、レースコントロールの人たちが世界選手権レベルかというと、決してそうじゃないと今回も感じました。ぜひ、早急に取り組み方を見直してもらいたいものです。

小松礼雄エンジニア&ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGP木曜日 小松礼雄エンジニア&ミック・シューマッハー(ハース)
ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第16戦イタリアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)