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 TCRドイツ・シリーズやADAC GTマスターズとの併催イベントとして開催された電動ツーリングカー選手権、FIA ETCRことeツーリングカー・ワールドカップの第6戦は、開幕からシリーズを席巻してきたマティアス・エクストローム(クプラe-Racer)率いるクプラEKS陣営の直接対決構図に。

 結果、前年パイロットシーズンの王者であり、チーム代表でもあるエクストロームを圧倒したエイドリアン・タンベイ(クプラe-Racer)が、週末最多得点者“King of the Weekend”を獲得すると同時に、創設2年目でFIA格式の世界選手権に昇格したシリーズで自身初の”ワールドチャンピオン”に輝いた。

 7月末にイタリア・バレルンガで開催された第5戦を最後に、シーズン最終戦のカレンダーが未確定状態となっていたシリーズは、アジアへの渡航制限により韓国のインジェ・スピーディウムを訪れることが「難しい」との判断から、8月に開催されたFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)によって新たな開催地を承認。9月23~25日の週末に、ドイツのザクセンリンクでシーズンフィナーレを迎えることが決まっていた。

 本来なら地元の韓国で凱旋レースを戦う予定だったヒョンデ・モータースポーツNにとっては、ドイツのアルツェナウを拠点とする同モータースポーツ部門にとっての『ホームイベント』の役目も担う1戦に。

 しかし初日から主導権を握ったのはヒョンデ・ヴェロスターN ETCRではなくクプラe-Racerを操るドライバーたちで、組み分けされた『Pool Fast』ではウォームアップラップこそスピンを喫したものの、トム・ブロンクビスト(クプラe-Racer)が最速タイムでポールポジションを獲得。そのままクォーターファイナルでもエクストローム“代表”を寄せ付けず、4周にわたって封じ込めることに成功した。

 一方の『Pool Furious』でも僚友タンベイが躍動し、ブロンクビストと同じくポールポジションからクォーターファイナルを戦うと、今季よりヒョンデ陣営から参戦するミケル・アズコナ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)や、同じく今季初の電動シリーズを戦ったノルベルト・ミケリス(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)らを従え勝利を飾ってみせる。さらに敗れたアズコナには、再車検でフロントアクスルの技術的違反が発覚して失格処分となる厳しい処置も課された。

 明けた日曜も順当にセミファイナルを勝ち上がったクプラEKSのふたりは、それぞれのスーパーファイナルでポールから勝負を開始すると、まずは『Pool Fast』のブロンクビストがエクストロームとニッキー・キャツバーグ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)を抑えてリードを奪う。

 2周目の終わりには、そのキャツバーグとエクストロームが接触し、EKS代表はマキシム・マルタン(アルファロメオ・ジュリアETCR)とジャン-カール・ベルネイ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)に次ぐ5番手までポジションを落とす。

 しかし6台がパックとなって争った勝負は最後までもつれ、ベルネイをパスしたエクストロームがマルタンに迫ると、最終ラップの最終コーナーで2番手キャツバーグと3番手マルタンが衝突。スピンを喫したヒョンデの脇をアルファロメオとクプラがすり抜け、勝者ブロンクビストに続き、2位マルタン、3位エクストロームのリザルトとなった。

8月に開催されたFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)によって、ドイツのザクセンリンクでフィナーレを迎えることが決定していた
初日の『Pool Fast』では、トム・ブロンクビスト(クプラe-Racer)がマティアス・エクストローム”代表”を退ける
マキシム・マルタン(アルファロメオ・ジュリアETCR)とニッキー・キャツバーグ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)も気を吐くものの、クプラ勢に及ばず
初日時点で、エイドリアン・タンベイ(クプラe-Racer)が代表に対するアドバンテージを7点伸ばし、22点差とした

■新王者タンベイ「2022年は僕にとってこれ以上ないほどの1年になった」

 そして『Pool Furious』のスーパーファイナルも最前列からタンベイが逃げると、ミケリスとルカ・フィリピ(アルファロメオ・ジュリアETCR)らが追う一方、4番手発進だったアズコナはスタートで痛いミスを犯し、最後尾からの巻き返しを強いられる。

 3周目以降、首位タンベイとのギャップを詰めたミケリスだったが、ファイナルラップまで決定打を見つけ出すことができず。3番手フィリピを含めテール・トゥ・ノーズの状態に持ち込んだものの、最後まで彼らを寄せ付けなかったタンベイが週末完全制覇で“King of the Weekend”を獲得。自身初のワールドタイトルを確定させた。

「素晴らしい気分だ。週末の初めから多くのプレッシャーを感じていたが、最後には勝っていたよ」と安堵の表情を浮かべた新王者タンベイ。

「この結果について、僕を信頼してくれたすべての人に感謝したい。とくにマティアス、そして僕の友人、チームの全員に感謝しているよ。これまで信じられないほど多くの感情を経験してきたし、2022年は僕にとってこれ以上ないほどの1年になった」と続けるタンベイ。

「(開幕戦フランス)ポー市街地でグリッドに並び、シーズンをスタートできたことは幸運だった。あそこは僕の幸運な場所のひとつだったからね。いつも『世界チャンピオンになりたい』と願っていたが、その思いは誰も僕から奪うことができなかったものだ」

 2016年末にDTMを離れて以降、今季ひさびさのレギュラーシートを得てFIA ETCRデビューを果たしたタンベイは「今この状況で、何が起こっているのかを理解するのは難しい」と、その世界タイトル獲得を感情的に締め括った。

「これは僕にとって初めてのタイトルであり、クプラとEKSファミリーには本当に大きな感謝を伝えたい。彼らは1年間素晴らしい仕事をしてくれたんだ。そして僕はすぐにパパになる。これ以上の結果を夢見ることはできないね。僕のガールフレンドにも大きなキスと祝福を!」

 週末最大100ポイントを獲得した新チャンピオンに続き、代表のエクストロームがランキング2位、そして同じく大量ポイントを稼ぎ出したブロンクビストは、マルタンとアズコナを抜いて単独3位に浮上。最終的にクプラEKSの3名がランキングトップ3を独占する結果となった。

『Pool Fast』のスーパーファイナルは、トム・ブロンクビスト(クプラe-Racer)が制する
『Pool Furious』では、タンベイが週末完全制覇で”King of the Weekend”を獲得。自身初のワールドタイトルを確定させた
「これは僕にとって初めてのタイトルであり、そして僕はすぐにパパになる。これ以上の結果を夢見ることはできないね」と、喜びを語ったタンベイ
新王者タンベイ、エクストローム、そしてブロンクビストと、EKS陣営がドライバーズランキングでトップ3を独占する結果となった