バーレーンに続くシリーズ初の中東連戦であり、2018年から創設されたWTCR世界ツーリングカー・カップの歴史に幕を降ろす“真のフィナーレ”でもある2022年第9戦が、11月25~27日にサウジアラビアのジェッダ・コーニッシュ市街地サーキットで開催され、予選でQ2突破を決めたBRCヒョンデN スクアドラ・コルセのミケル・アズコナ(ヒョンデ・エラントラN TCR)が、ライバルの脱落もあり自身初のワールドチャンピオンを獲得した。
決勝はアウディ陣営のコムトゥユー・レーシングが席巻し、レース1はナサニエル・ベルトン(コムトゥユー・DHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が、レース2はジル・マグナス(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が制覇し、マグナスはWTCR“最後の勝者”の称号を得て、シリーズは5年間の波乱と蓄積に終止符を打った。
今季限りでのWTCR終了に伴い、来季2023年は世界各国の人気イベントを指定しての『TCRワールドツアー』に移行するプランを表明しているTCR最高峰カテゴリーだが、そのグランドフィナーレは砂漠地帯でのナイトレースが舞台となった。
同じく灼熱の勝負となった前戦バーレーンを「チームとして必要なリソースが不足している」とし、欠場を強いられていたロブ・ハフ(ゼングー・モータースポーツ/クプラ・レオン・コンペティションTCR)だが、ひさびさ勝利を挙げたマカオ参戦を経て、ここサウジへは「急遽、うれしい計画変更」で復帰参戦することが決まった。
ナイター照明が焚かれるなか始まった週末最初のテストセッションでは、ノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデN スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)が最速。続くFP1、FP2ではそれぞれマグナスとベルトンのアウディ勢が速さを見せ、セダン系モデルがハッチバックのホンダ・シビックを圧倒するスピードを披露する。
こちらもナイトセッションとなった予選では、引き続きコムトゥユーから参戦する今季のTCRヨーロッパ王者フランコ・ジロラミらを筆頭に、トム・コロネル(コムトゥユー・DHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)やマグナスらも加わって“トウ”を活用するアウディ・トレインが形成される。
その隊列もクレバーに利用し、タイトル候補として孤軍奮闘のネストール・ジロラミ(ALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が、スリップストリームの恩恵を獲得してなんとか10番手とQ2進出圏内へ。
同じくヒョンデ陣営も上位3台のポジションを固めるべく、列車を組んでチーム戦略を実施すると、アズコナがターン2でブレーキングポイントを逃し、まさかのワイドに。直後には「ペダルのひとつが固着している」という問題を訴えてピットに帰還し、この時点でカットライン線上の12番手と、Q2進出にプレッシャーの掛かる状況に陥ってしまう。
残り8分で今度は僚友エステバン・グエリエリに牽引された“ベブ”ことネストールは、チャンピオンシップの希望を維持するべく9番手とし、1ポジションアップでQ2へ。同じくミケリスとニッキー・キャツバーグに引き上げられたアズコナは、最後の最後でトップの座を奪ってみせ、無事にQ2進出を決めてタイトル争いの直接対決を続けることに。
ふたたびチーム編成の展開となったQ2も、開始直後からアウディ勢が主導権を握ってセッションが進むと、残り6分からコース上に各陣営のトレインが形成され、アズコナ、ベルトンらが入れ替わりでトップタイムを刻んでいく。
一方、コンペンセイション・ウエイトの影響もあり、この週末もシビックに「決定的な速さが欠けている」と語ったネストールは、当落線上“背後”の11番手でセッションを進めると、残り2分でニュータイヤを装着し最後のアタックへ。10番手ならQ3進出とともにリバースポールも手にできることから、最後の賭けに出たものの、すべてを託したラップで自己ベストを更新することができず。
この瞬間、ネストールのQ2敗退とともにQ3に進んだアズコナが2022年WTCRのドライバーズタイトル獲得を決めると同時に、最後の“WTCRチャンピオン”を手にすることとなった。
「信じられない、なんてシーズンだ。本当に信じられないよ!」と、Q2直後に喜びを爆発させたスペイン出身の新チャンピオン。「これまでずっと、家族や支援者からすべてのサポートを受け、この瞬間のために努力してきた。正直なところ、そのすべてが長い間取り組んできたものであり、基本的には僕の人生全体、そのものなんだ。ママとパパ、家族、ガールフレンド、いつも僕を支えてくれた多くの人々に感謝しなければ。本当にありがとう、バモス!」
続くQ3ではベルトンがポールポジションを奪い、わずか0.107秒差でミケリスがフロントロウ2番手に並ぶ結果に。新王者アズコナは2列目3番手を獲得し、隣にコロネル、背後にマグナスの並ぶトップ5となった。
■「今は言葉では言い表せないくらい幸せ」と、シリーズの“ラストウイナー”となったマグナス
その予選セッションを終え、チャンピオンとしての言葉を求められたアズコナは、地元への思いとともに、ヒョンデ移籍初年度での戴冠に改めて感謝の意を示した。
「僕が生まれ育った村は人口2000人足らずの小さな集落だが、その大勢がこの瞬間を見届けてくれているはずだ」と、地元の村役場ではパブリックビューイングが実施されていることに触れたアズコナ。
「僕がチームに加入した最初の瞬間から、ノルビ(ミケリスの愛称)との初日以降メカニックやバックオフィスのメンバーまで、チームの全員が僕を暖かく迎え歓迎してくれた。善良な人々の隣にいれば、良いことがやってくる。レースウイークだけでなく、月曜から金曜のウイークデイまでチームのすべての仕事に感謝したい」と続けた新チャンピオン。
「そして、素晴らしいシーズンを一緒に過ごしてくれたノルビにも感謝しなければならない。彼は素晴らしいチームメイトであり、素晴らしい友人なんだ。そんな面々が自分の周りにいるなんて信じられないよ。このような人々の周囲にいれば良いことが起こり、このトロフィーは彼らのおかげだと思う。ヒョンデ・モータースポーツとBRCには深い感謝を捧げつつ、今、僕は世界チャンピオンであり……素晴らしい気分だ」
明けた日曜夜のレース1は、今季初ポールを獲得したベルトンが背後のミケリスから再三のアタックを受けながらも、28周を走破して“ライト・トゥ・フラッグ”での今季2勝目を獲得。「ノルビは気楽ではなかった。彼は僕に多くのプレッシャーを掛けてきたし、ひとつのミスでポジションを失っていたはずさ」と、3位に続いた僚友コロネルとともにポディウムに登壇したベルトン。
続くレース2は、リバースの6番手発進からオープニングで僚友ヴィクトル・ダヴィドフスキーや新王者アズコナをパスしたマグナスが、すぐさま4番手に浮上。すると3周目には前方のフランコ・ジロラミが、2番手キャッツバーグのヒョンデに無謀なダイブを仕掛け、首位にいたアッティラ・タッシ(リキモリ・チーム・エングストラー/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)をも巻き添えに、クラッシュを喫する展開に。
これで悠々と首位浮上に成功したマグナスは、終盤にチームメイトのベルトンがハフと絡んだことで、セーフティカーが発動したままのチェッカーとなり、ダヴィドフスキーとアズコナを従えたマグナスがWTCR最後のレースウイナーに輝いた。
「ナス(ベルトンの愛称)は本当に残念だった。彼が順位表の2位にいるのが見たかったし、チームにもワン・ツー・フィニッシュをプレゼントしたかった。でも今は言葉では言い表せないくらい幸せで、フィニッシュラインを越えたときは本当に感動的だったよ」と続けた“ラストウイナー”のマグナス。
「これよりも大きな勝利を収めてきたが、今夜は本当に感情的な勝利だ。今季もっともタフなレースだったかもしれないし、これが昼だったら最後までやり切れたかどうかわからなかったよ」
前述のとおり、来季より世界中のTCRシリーズから名物イベントを指定する『TCRワールドツアー』に移行するシリーズは、ジェッダでのレースウイークを終えて2023年のTCRヨーロッパ序盤3戦の編入をアナウンス。これにより、開幕戦は4月28~30日のポルトガル・ポルティマオが予定され、ベルギーのスパ・フランコルシャン、ハンガロリンクと続くカレンダーに。現状、シーズン終盤にはオーストラリアを代表する聖地、マウントパノラマでのバサースト・インターナショナルを含む全8戦が計画されている。