シリーズ史上初の南米大陸決戦となった電動オフロード選手権、エクストリームE第4戦『アントファガスタ・ミネラルズ・カッパーX Prix』は、同イベントよりエントリー名を改称したF1王者ルイス・ハミルトン率いるX44ヴィダ・カーボン・レーシングのセバスチャン・ローブ/クリスティーナ・グティエレス組が、トップチェッカーを受けたNEOMマクラーレン・エクストリームEのペナルティにより今季初勝利を獲得。
一方で、ニコ・ ロズベルグ創設の初代王者ロズベルグ・Xレーシング(RXR)は、選手権リーダーとして予選最速を記録したものの、ファイナルを前に技術的な問題が発生し、タイトル獲得のチャンスを逸する結果となった。
今季2022年よりFIA国際自動車連盟のインターナショナル選手権に昇格したシリーズは、今回が南米大陸初上陸。9月23~25日に開催されたチリ北部アントファガスタ州でのイベントを経て、11月にはウルグアイの世界的高級リゾート地、プンタ・デル・エステでの最終戦を控える。
アンデス山脈と太平洋の間に広がる海岸砂漠“アタカマ・デザート”に設定された全長3.05kmのタフなコースでは、プラクティスからアクシデントが多発し、御年60歳を迎えたユタ・クラインシュミットがFP2でのクラッシュにより負傷する事態となる。
すぐさま彼女の無事は確認されたものの、予防措置として救急搬送された“砂漠の女王”に代わり、シリーズのコース設定とリザーブ的立場を兼務するチャンピオンシップ・ドライバーから、弱冠22歳のクララ・アンダーソンがABTクプラXEのレースシートに座ることとなった。
「今週末に向けABTクプラXEで競うことは、金曜夜の予想外の驚きになった。何よりもユタの無事と、一刻も早い回復を願っているけれど、こうして実戦レースを戦えることに心から興奮している」と、意気込みを語ったアンダーソン。
その彼女は今季開幕前にエキサイトエナジー・レーシングと契約を結び、シリーズデビューが期待されていたものの、直前の新型コロナウイルス(COVID-19)罹患により開幕サウジアラビア戦を欠場。そのままWorldRX世界ラリークロス選手権での活動も重なったことから、そのレースシートをタマラ・モリナーロに譲るかたちとなっていた。
「ナッサー(アル-アティヤ)とチームは私をとても温かく迎えてくれて、クルマの操作ガイドやレギュレーション、そしてコース攻略のすべての手順を素早く教えてくれたわ。もちろん、ぶっつけ本番で予選に臨むのは難しいことだけど、この挑戦を楽しんでいるし、私たち全員にとって良いものになるよう最善を尽くすわ!」と、直前のWorldRX第5戦では史上初の女性ポディウム・フィニッシャーとして歴史に名を刻んでいるアンダーソン。
迎えた予選では、2021年のシリーズ創設以降前戦サルディニアまで“予選セッション100%制覇”を続けてきたX44の記録更新を阻止し、勢いに乗るRXRのふたりがスピードを見せ、3番手のNo.99 GMCハマーEVチップ・ガナッシ・レーシング(CGR)も抑え、ヨハン・クリストファーソン/ミカエラ-アーリン・コチュリンスキー組がトップの座を射止めた。
「このトラックではミスは許されないし、私の戦略は着実にクルマを前に進めることだった。Q1では素晴らしいラップで2周できたけど、Q2は大惨事だったわ。ヨハンにクルマを引き継いだとき、すでに車体は何回かヒットしていたから『無事に戻って来たい』と思ってた。いずれにせよ『P1』は素晴らしい結果だし、明日が楽しみね」と語った元STCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権レギュラーのコチュリンスキー。
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明けた日曜午前のセミファイナル、そして敗者復活のクレイジー・レースを経て、RXRを筆頭にプラクティス最速を記録したアクシオナ・サインツXEチームの“帝王”カルロス・サインツ/ライア・サンズ組、さらにX44ヴィダ・カーボン・レーシングとABTクプラXE、そしてタナー・ファウスト/エマ・ギルモア組のNEOMマクラーレン・エクストリームEがファイナル進出を確定させる。
しかしファイナルを前に王者RXRのワンメイク車両『オデッセイ21』に異変が生じ、クルマは再起動することなく息絶えてしまう。これにより、セミファイナル2で敗退していた前戦勝者CGRのカイル・ルデュック/サラ・プライス組が、代役でのファイナル出走を果たすこととなった。
失意のクリストファーソンとコチュリンスキーがパドックから見守るなか、選手権を争うライバルたちがスタートを切ると、まずはX44のローブがリードを奪い、背後からファウストのマクラーレンが追う展開に。さらにハーフスピン状態に陥りながらもサインツに仕掛けたルデュックが3番手を奪取し、ドライバー交代のスイッチゾーンに近づくと、最後の左コーナーで強引に仕掛けたCGRがサイドウェイのままX44のマシンに接近、これで抜け出したマクラーレンが首位で折り返す。
女性ドライバーのギルモアvsグティエレスの構図でファイナルラップに突入すると、ハイパードライブを巧みに利用したX44が早めに首位奪還に成功。2台は3番手のCGRプライスを置き去りにする速さを見せると、コース終盤でサイド・バイ・サイドに持ち込んだギルモアが逆転を決めてトップチェッカー。今季より参戦のNEOMマクラーレン・エクストリームEが、ついに先頭でフィニッシュラインを横切った。
しかしレース後に「ウェイポイントのマーカーを逃した」ことによるペナルティがリザルトを大きく覆し、首位のマクラーレン、3位フィニッシュのCGRにタイム加算の裁定が降り、最終ラップでファステストを刻んでいたグティエレスのX44が今季初優勝を奪還。アクシオナ・サインツXEチームが2位、ABTクプラXEが3位となり、代役アンダーソンはデビュー戦でのポディウム獲得を果たす結果となった。
「ここで優勝でき、チャンピオンシップ争いを続けることができてとてもうれしい。RXRは本当に強いチームだから、ファイナルでドライブできなかったのは残念ね。非常にタフなレースだったしファステストラップを記録できて驚いたけど、女性ドライバーが自分自身を証明し、世界最高のドライバーと競争できることを証明する素晴らしい機会をモノにできた」と、改めて全体最速の意義と喜びを語ったグティエレス。
「ウルグアイで複数のチームがチャンピオンシップを争うことは、本当に興味深い展開になるでしょうし、南米でレースをするのは(レイド出身の彼女にとって)大好きだから良いことね。願わくばもう一度レースで勝利し、チャンピオンシップも獲得できることを願っている」