10月30日に三重県の鈴鹿サーキットで第10戦の決勝レースが行われ、2022年のシリーズチャンピオンを獲得した野尻智紀(TEAM MUGEN)が優勝を飾り幕を閉じた全日本スーパーフォーミュラ選手権。野尻は今季も圧倒的な強さをみせ連覇を達成したが、連覇イコール、F1ドライバーに必要なスーパーライセンス獲得のための40ポイントを超えたことになる。この点について野尻、そして過去3年間でランキング2位/4位/3位となり、同様に40ポイントを満たした平川亮(carenex TEAM IMPUL)に聞いた。
現在、F1ドライバーとして戦うためには、FIA国際自動車連盟が定めるスーパーライセンス取得が義務付けられており、取得のためには具体的には18歳以上であること、過去2年以上ジュニアシングルシーターに参戦したこと、運転免許を持っていること、F1のスポーツレギュレーションに関するテストにパスすることなどが求められる。
そして、世界中の若手ドライバーたちが血まなこになりながら求めているのが、各カテゴリーのランキングに応じて与えられるスーパーライセンスポイントを過去3年間に40点以上獲得することだ。そのためにポイントが高いFIA F2やFIA F3は参戦費用が高騰。それでも多くのドライバーたちが挑み続けている。
一方日本のシリーズで最もスーパーライセンスポイントを多く獲得できるのがスーパーフォーミュラだ。チャンピオンは25点、ランキング2位は20点、3位は15点獲得できる。ランキング9位まで得点がある、魅力的なカテゴリーのひとつとも言えるだろう。
■「若手が日本の夢を背負うべき」と野尻
2021年、2022年と連覇を飾った野尻は2020年はランキング5位で、これで3年間の合計獲得ポイントは、手元の計算だが57点となった。40点を優に超す数字で、理論上はスーパーライセンスを申請することができる(高額な申請費用を払わなければならないが)。
野尻はレース後の記者会見でも“三連覇”について触れているが、敢えてこれについてズバリ野尻を直撃すると、「意識していない……というか、『意識してください』という感じですね(笑)」とぜひ周囲にスーパーライセンスポイント40点以上を持っていることを意識してほしいという。とはいえ、現実としては33歳という年齢もあり、すぐにF1か……というとそういうわけにもいかない。
「正直に話すと、僕も過去ヨーロッパに挑戦したことがもちろんあります」と野尻は言う。2007年にレーシングカートでイタリアンオープンマスターズやワールドカップに挑んだ経験がある。また2010年には、マカオグランプリでフォーミュラBMWパシフィックにも挑戦した。
「日本人ドライバーがヨーロッパに挑戦するチャンスは数少なくて、一度チャレンジしてダメならダメ……のようなところがあると思うんです。僕も一度、たくさんの方々のご協力があり挑戦する機会があったのですが、僕はその機会を活かせなかったんです」と野尻。
「マカオでフォーミュラBMWパシフィックにも出場させてもらったこともあったのですが、その時は2位でした。優勝したのは、まだ若いカルロス・サインツJrだったんです。そういった背景を考えると、僕が挑戦するよりも、他にもっと適任がいると思うので、そういった若いドライバーたちが日本の夢を背負うべきだと思っているのが率直な気持ちです」
「ファンの皆さんから、(F1の)フリープラクティスだけでも走ってほしいという声をいただいているのは理解しています。もしそういう機会がいただけることになったら全力で挑戦したいとは思いますが、今のところ、自分からそういうアクションを起こす段階ではないのかな、と思っています」
もちろん、その若手ドライバーたちが必要なポイントをスーパーフォーミュラで得るためには、圧倒的な強さを誇る野尻を倒していかなければならないということだ。
■「そういう機会があればいいな、というくらい」と平川
一方、これまでの3年間でランキング2位/4位/3位となった平川は、今季3位になったことで45ポイントに到達しているはずだ。こちらも敢えて直撃すると「知らなかったです。そこは意識していなかったですね」という。
「いつでもいけますよ、とは思ってますけどね(笑)」と笑う平川は28歳だが、F1を狙うとなるとやや年齢は高い。「自分も中堅どころになってしまったので、可能性はすごく少ないですけど、そういったチャンスがないわけでもないですからね。自分もWECという世界選手権を戦って結果を出してきているので、そういう機会があればいいな……というくらいですね」とそれほど意識はしていない様子だった。
野尻も、もちろん平川も同様だが、スーパーライセンスポイントが到達したからと言っても、現代のF1はそう簡単にドライブできるものではない。政治面も、金銭面でも非常にハードルが高い。
しかし、ふたりはスーパーフォーミュラという舞台が、その夢を実現できるステージになり得ることを証明してみせたとも言えるのではないだろうか。野尻が言う「適任」が現れるかは、2023年以降 を見ていかなければならないだろう。