2022年NASCARカップシリーズのプレーオフも、いよいよ”ラウンド・オブ12”の最終戦に到達。第32戦として10月8~9日開催された今季最後のロードコース戦『バンク・オブ・アメリカ・ローバル400』は、ドラマ満載の展開となった終盤に、タイヤギャンブルを成功させたクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が勝利を飾り、滑り込み大逆転での“ラウンド・オブ8”進出が確定。その一方、ディフェンディングチャンピオンのカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は、わずか2ポイント差でタイトル防衛を逃す結果に終わった。
今季より導入された新規定車両“Next-Gen”で初のシーズンを戦ってきた一行だが、このプレーオフに入ってからもワンメイクタイヤのバーストによるアクシデントの影響が色濃く残り、第30戦テキサスでタイヤ不具合による“ハードヒット”を強いられたアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は、引き続き脳震盪症状に対処するため2戦連続でドクターストップが掛かり、これでプレーオフ・ドライバーの権利を消失。同じく足首の骨折と診断されながら、前戦タラデガに強行出場したコディ・ウェア(リック・ウェア・レーシング/フォード・マスタング)も、今回は療養を余儀なくされた。
そうした状況も受け、この週末に開催されるシャーロット“ローバル”での1戦を前に、ドライバー陣とチーム首脳、さらにNASCARの運営側を交えて、このNext-Genの安全性に関する会議の場が設けられた。
「ミーティングについて多くを語ることはないが、他の参加メンバーから情報が得られるだろう。しかし内容は平穏無事だった。参考にはなるよ」と語ったのは、自身も現行規定モデルに対し安全性に関する懸念を唱え続けて来たデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)。
「今、僕の他に多くの人々が声を上げ始めている。これは良いことだ。すべてのサウンド・バイトが僕から発せられる必要はないからね」
こうして始まった週末は、来季より所属チームとカップ戦“フルシーズン復帰”をアナウンスしたA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)のプラクティス最速で幕を開けると、続く予選ではジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が今季3度目のポールポジションを奪取。これがロガーノにとってカップ通算25回目の最前列獲得になると同時に、ここ”ローバル”での初ポールとなった。
「最後のシケインで(アタックラップを)台無しにしたような気がしたが、大丈夫だったね。僕のシェル/ペンズオイル・マスタングには明らかにスピードがあるみたいだ。前から始めるのはいいことだし、僕らの仕事は次のラウンドに進むこと。そのための素晴らしい出発点を手にした。ここでトラックポジションを失うとかなり厄介だから、とにかく順位をキープしたいね」
その宣言どおり、日曜ファイナルのスタートから独走体制を築いたロガーノがそのままステージ1を制覇。続くステージ2では7番グリッドを獲得していたA.J.が中盤の隊列を率いたものの、最終的にロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)がトップを奪う。
しかしステージ3に入ると一転。僚友ダニエル・スアレス(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)とともに上位を争っていたトラックハウス陣営に不運が襲い、スアレスはパワーステアリングの不調を訴え、チャスティンは右リヤサスペンション修復でガレージに留まるなど、ここから一気にレースが動き始める。
残り6周となった103周目には、トラック上に落ちた看板と思われるデブリで3回目のコーションが出されると、この日は終始トップ10圏内を走行しながら「僕らは最速のクルマを持ってはいなかった」と語ったベルがピットロードへ。ここでフレッシュなタイヤセットにチェンジし、12番手からのリスタートを迎える。
ここでリードラップを争ったチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)とA.J.に対し、背後のターン1では前戦に続き48号車のアリー・シボレーを託されたノア・グラグソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らがマルチアクシデントに巻き込まれ、その後も中盤セクターではA.J.がバトル中にワイドとなり失速。
エリオットもリヤをヒットされスピンを喫し、続くシケインではさらに複数のマシンがコースを離れるなど、これら争いの余波も利用してフィニッシュラインに戻ったとき、ベルはタイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)を追う立場で3番手にまでジャンプアップを見せる。
続く108周目にレディックを仕留めた20号車トヨタ・カムリは、首位を行くケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)を追う。するとここで幾多のバトルによるデブリ散乱でふたたびのコーションとなり、レースは延長戦決着の展開に。
111周目リスタートのファイナル・スプリントで、使い古したタイヤを履く首位ハーヴィックに成す術はなく。ターン1アウト側からベルが悠々とラップリーダーに立つと、そのまま112周目のトップチェッカーへ。スタート前には33点のビハインドで“ラウンド・オブ8”進出圏外だったベルが、大逆転で「最後の8人」の権利を獲得した。
「どんな境遇でも、最後の瞬間にここで立っていることが重要なんだ。最速のクルマがつねに勝つとは限らないレースを見続けてきたしね。今季はロードコースが僕らの強みでないことは周知の事実だが、僕らはちょうどいいタイミングでそこにいた」と、最後のコールを勝因に挙げたベル。
「明らかに勝てる位置にいなかったし、僕らはサイコロを振ってギャンブルをし、それが報われたんだ!」
■王者ラーソンがプレーオフ脱落「自分自身に腹が立つ」
一方、98周目に右リヤをウォールにヒットし、トーリンクを破損してレースを失っていた王者ラーソンは、ここでプレーオフから脱落し、正式にタイトル防衛の機会を失う結果となった。
「今日だけでなく、僕は1年を通じてあまりに多くのミスを犯したということさ。そこにもうひとつのミスが追加され、最終的に連覇を狙う機会を失った。自分自身に非常に腹が立つよ。今年は何度もチームを失望させたが、今日も彼らを大いに失望させてしまったんだからね……」と、自身を責めるラーソン。
同じくトラブルに見舞われたスアレスに加え、最後のリスタートではシケインの攻防でスピンを喫したオースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)も敗退が決定。一方、そのファイナル・スプリントを20番手圏外から再開したチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)は、ライバルの脱落にも助けられ9位でフィニッシュし、こちらも滑り込みで最後の進出権を手にした。
「そりゃあ、もう……。なんてワイルドな日だ。最後にはすべてが必要だったし、それを確保した瞬間に、今度はデブリだ。それでも僕らは最後に良いショットを持っていたし、こういうレースでは最後の最後で物事がどれだけ急速に変化するかがいつだって気掛かりだ。2号車(シンドリック)のスピンを見て『まだ可能性はある』と思ったよ。僕らも周囲よりフレッシュなタイヤを履いていたからね」と胸を撫で下ろすブリスコ。
これでベルとブリスコに加え、エリオット、ロガーノ、ハムリン、チャステイン、そしてライアン・ブレイニー(Stewart-Haas Racing/フォード・マスタング)とウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)のラウンド・オブ8進出が確定。10月16日よりラスベガス、ホームステッド、マーティンスヴィルの3戦で雌雄を決し、最後の4名がフェニックスでの最終戦『チャンピオンシップ・レース』に臨む。
一方、マルコ・アンドレッティ(ビッグ・マシン・レーシング/シボレー・カマロ)のデビューで話題を集めた併催NASCARエクスフィニティ・シリーズの第29戦は、カップ同様延長リスタートでタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)から首位を奪い取った40歳のA.J.が、前戦に続く連勝劇で今季5勝目を獲得。わずか27周でアクシデントに巻き込まれたマルコも「ショートオーバルなんかは本当に楽しそうだ。また絶対に帰ってきたい」と、NASCAR再挑戦の希望を語っている。