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 いよいよ日本に帰ってくる、ラリージャパン。WRC世界ラリー選手権『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が、11月10~13日にシーズン最終戦として愛知県と岐阜県を舞台に開催される。北海道での開催以来、実に12年ぶりのカムバックとなる日本での世界選手権を楽しみ尽くすべく、ここではエントリーリストに名を連ねる有力参戦ドライバーや、今季より導入の最高峰“ラリー1”クラスの最新ハイブリッド車両の成り立ちや個性を紹介する。その第3回は、地元名古屋の名門ラリーショップを生家としながら、まずはレーシングカート、そしてミドルフォーミュラで頭角を現したのち、TOYOTA GAZOO Racingのスカラシップに挑戦すると、瞬く間に世界選手権まで駆け上がった日本期待のWRCドライバー【勝田貴元】にスポットを当てる。

 国内ラリー界で“勝田”と聞けば、瞬間的にLUCK(ラック)を思い浮かべるほど。勝田貴元は祖父で創業者でもある照夫氏、そして父で現役ラリーストの範彦氏(全日本ラリー9冠)というサラブレッド一家の3代目として生まれた。そんな家業を横目で眺めつつ、自身は幼い頃から自転車競技のBMXに熱中していたという。

 しかし父の進めで小学6年生でレーシングカートを体験すると、そこから一気にドライビングの世界に没頭。地元トップチームに加入し、2007年には日本代表としてROTAX MAXの世界大会にも参戦。マカオでは最後尾から勝利を挙げるなど注目の才能とみなされていた。

 その実績を提げて4輪に昇格すると、当時のFTRS(現TGR-DC RS)を受講。カート時代から旧知の仲だった平川亮らと切磋琢磨する日々を過ごし、2011年にはFCJでチャンピオンを獲得する。以降はTDP生としてトムスから全日本F3選手権にデビューするなど、将来のトップドライバー候補として順調にステップアップを続けて来た。

 しかし、その活躍と並行して2012年には地元愛知県で開催された新城ラリーに挑戦し、全日本ラリーなどへもスポット参戦を重ねると、これも血筋の導きか2015年にはフォーミュラのキャリアを放棄してでも、ラリー界への転向を決断。トヨタが立ち上げたTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラムの1期生として本格的に世界への挑戦を開始した。

 同期生の新井大輝(PWRC世界チャンピオン新井敏弘の子息)とともに、国際ラリーを学ぶ武者修行の場としてトミ・マキネン・レーシング(TMR)で活動を始め、フィンランドを拠点に海外のステージで経験値を積むことに。2016年にはWRC昇格を見据えてフォード・フィエスタR5で北欧の国内選手権やERCヨーロッパ・ラリー選手権でマイレージを重ねた。

ラリー転向後のキャリア初期は、カートやフォーミュラで培ったドライビングが抜けず、クラッシュも多数経験し「心底、悩んだ」時期もあったという
トップカテゴリー昇格後、2021年に続いて2年連続でサファリ・ラリーの表彰台に上がった
距離を重ねたフィンランドや、ターマックラリーなど、速度の高いステージでは世界のトップに匹敵するスピードを備える

■WRC2クラスで2勝を飾り、ついにトップカテゴリーへ

 WRCで4度の世界王者に輝き、TOYOTA GAZOO Racing WRTの立ち上げにも尽力したマキネンの指導を受けた勝田は、当初こそ「サーキット時代に身につけた限界点を求めるドライビングから、ステージ上でのリミットを見極めるドライビングへの切り換えに苦心」したものの、次第にラリードライビングの要点を体得。ダニエル・バリットを自身のコドライバー兼メンターに迎え、トシ新井と同じく日本のWRC挑戦者として2006年のPWRC開幕戦モンテカルロを制覇した奴田原文雄のコドライバー経験も持つベテランからもラリーの作法を学び続けた。

 その成果は2017年から徐々に開花し始め、イタリアでのWRC2クラス初表彰台に続き、翌年のスウェーデンではWRカー経験者やスノーラリーが得意な北欧勢を差し置き、6本のSSベストを刻んで世界選手権でのクラス初優勝を成し遂げた。

 2019年にもWRC2のチリで2勝目を飾り、フィンランド国内選手権では初のWRカーとなる『ヤリスWRC』のステアリングを握ると、ラリー・ドイチェランドにもスポット参戦を果たし、ラリー転向わずか5年で念願の世界選手権トップカテゴリーに到達。難関ターマックを走破して総合10位に入り、初ポイントを獲得する堅実さも披露してみせた。

 同年にはラリージャパン復活に向け岡崎市で開催のセントラルラリーにも『ヤリスWRC』で凱旋、2020年からは晴れてTOYOTA GAZOO Racing WRTの一員としてチーム4台目のマシンを託される。

 初年度からスーパーSSのようなツイスティかつ“コースジムカーナ”のようなステージではトップドライバーを上回るスピードも見せ、最終戦モンツァでは最後のパワーステージで初のトップタイムを叩き出すなど、条件が揃った場面でのスピードはすでにワールドクラスであることを証明した。

 そして2021年に19年ぶりのWRC開催となった伝統のサファリでは、荒れた展開のなかで一時はラリーリーダーに立つなど日本のファンを沸かせると、近代の“絶対王者”WRC8冠を誇るセバスチャン・オジエと並んで2位表彰台に登壇する。

 今季2022年は“ネクストジェネレーション”と銘打った育成チームで、新コドライバーのアーロン・ジョンストンとともに新規定ラリー1車両をドライブするが「ハイブリッドの搭載やアクティブデフの廃止などで、ドライビングスタイルの変更が必要」となり、アンダー傾向が強まり積極的に曲げていく必要があるハンドリング特性や、リヤの重さなどにも適応するシーズンに。

 それでも、ケニアの地では2年連続の表彰台となる3位に入るなど、安定した戦績で僚友エルフィン・エバンスに次ぐドライバーズランキング5位につけている。

 自身のお膝下であり、土地勘に加えて凱旋ラリーなどでステージ感覚も知るラリージャパンは他の選手と比べると『勝手知ったる道』でもある。そんな“条件が整った”環境で、ワールドチャンピオン経験者オジエを相手にどんな走りを見せてくれるだろうか。

WRC2時代には名物ステージのジャンプで最長不倒記録に近づき、大いにファンを沸かせたことも
今季序盤には、本誌に対し「どれだけクルマが規定で大きく変わっても、最後は総合力」と語ってくれた
勝田のパフォーマンスに必要な条件が揃う、母国開催ラリージャパン。驚くべき結果を期待しても良いハズ