ラウンドごとに長いインターバルを挟んできた2022年TCRオーストラリア・シリーズも、11月11日~13日に“聖地”での最終戦バサースト・インターナショナルの週末を迎え、カンガルーが発見されセーフティカーが導入されたレース1では、ベイリー・スウィーニー(HMOカスタマー・レーシング/ヒョンデi30 N TCR)が今季2勝目をマーク。
そして霧と大雨でキャンセルされたレース2を挟み、年間最終ヒートとなったレース3では、週末直前に前戦の勝利を“取り消し処分”とされた2019年初代王者のウィル・ブラウン(リキモリMPCレーシング/アウディRS3 LMS)が、怒り心頭の“今季初勝利”を奪回。しかし逆転タイトルにはあとわずか9点及ばず。最終戦を前にランキング首位を守って来たトニー・ダルベルト(ウォール・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が、自身初のシリーズチャンピオンに輝いた。
約2カ月以上前の9月中旬に開催された第6戦サンダウンのレース3で、遅ればせながら今季11人目のウイナーに輝いていた初代王者ブラウンだが、この最終戦のレースウイークに入り「前戦はレース2と最終ヒートの後に充分な時間的猶予がなかったこと。また全関係者がブリーフィングに出席し、ドライバーとチームが違反の疑いと推奨される罰則を適切に検討できるよう」ペナルティ公布を遅らせたオーガナイザーの判断もあり、MPCのアウディはザック・ソーター(チーム・ソーター・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)とのインシデントに対し5秒加算のペナルティが課され、ここでブラウンは勝利を剥奪される結果に。
また、そのほかにも複数名のドライバーに“レイト・ペナルティ”が宣告され、選手権首位ダルベルトもスウィーニーとの接触で10秒加算となり、この時点のランク2位だったジョーダン・コックス(ギャリー・ロジャース・モータースポーツ/プジョー308 TCR)に対するポイントリードが56点から46点に削り取られた。
そんな波乱で始まったマウントパノラマの週末は、シリーズの今後に影響を与えるニュースも数多くアナウンスされ、まだスケジュール公表前ながら、来季2023年カレンダーの一部を構成する予定のバサースト・インターナショナルが、新生『TCRワールドツアー』に組み込まれることが内定した。
「WSCはTCRワールドツアーのグローバルカレンダーが間もなくリリースされ、そこにオーストラリアが重要なパートを形成することを確認する。オーストラリアは一貫して最もエキサイティングでプロフェッショナルなTCRシリーズのひとつであり、世界中の視聴者とTCRワールドツアーの恩恵をオーストラリアにもたらすはずだ」と語るのは、シリーズの生みの親でありTCRライツホルダーのWSCグループ代表も務めるマルチェロ・ロッティ。
こうした動きもあってか、この最終戦の週末には参戦エントラントにも動きがあり、TCRヨーロッパなどを主戦場として来たフランス出身のテディ・クレーレが、古豪ギャリー・ロジャース・モータースポーツ(GRM)とのジョイントでプジョー308 TCRをドライブすることが決まった。
「オーストラリアに上陸し、ここでレースをすることに本当に興奮しているよ。バサーストは伝説的なトラックだし、ここへ来るのが僕の夢だった。この素晴らしい場所を発見し、攻略することを楽しみにしている」と、オーレリアン・コンテやネストール・ジロラミ、ジャン-カール・ベルネイらに続く国際ゲストとしてエントリーする28歳のクレーレ。
一方、現地ではヒョンデ陣営のトップチームとして戦ってきたHMOカスタマー・レーシングが、この最終戦に向け新型エラントラN TCR(現地名i30セダン N TCR)を投入。ランク4位につけるジョシュ・バカンは、直前のウィントンでのシェイクダウンを経てマシンスイッチを決断した。
■レース3ではブラウンが大逆転のトップチェッカー。タイトルはダルベルトが獲得
「このカテゴリーに新しいクルマが導入されることは非常にエキサイティングだ。これはチャンピオンシップの成長と同時に、ヒョンデなどメーカーとの強固な関連性をも示している」と、初代王者ブラウンからHMOのエースを継承したバカン。
「カート時代からキャリアを通じて、まったくの新型モデルをドライブしたことがないから、この機会を与えられたことは非常に特別だ。加えて、このバサーストで初めてi30セダン N TCRを試すことは驚異的であり、真の特権だね」と続けたバカン。
「周回数が非常に少ない状態でバサーストに向かうことは理想的とは言い難いが、ハッチバックの形ですでに複数の勝利を収めて成功しているクルマが証明するとおり、セダンでもあのトラックにフィットすると確信している。いずれにせよ、来季に向けマシンの理解を深めるのは素晴らしいこと。そうすれば、2023年の完全なタイトル獲得に向け有利なスタートを切ることができる!」
こうして全19台が集結したイベントは、ヒョンデのスウィーニーがポールポジションを奪取してレース1のスタートを切ると、順調にリードを維持して周回を重ねていく。しかしサーキット施設内でカンガルーが発見されたため、12周目にセーフティカー(SC)が導入される。
無事に安全確保が確認され3周後にレースが再開されると、今季序盤戦からスピードを披露するジェイ・ハンソン(AWC MPCレーシング/アウディRS3 LMS 2)がヒョンデの背後へと迫る。
しかしハンソンは17周目の“ザ・カッティング”で壁にヒットし、前回のバサースト同様にここでリタイア。自らチャンスを潰したアウディにも助けられ、スウィーニーは2位ディラン・オキーフ(ギャリー・ロジャース・モータースポーツ/プジョー308 TCR)を挟み、3位に続いた僚友ネイサン・マルコム(HMOカスタマー・レーシング/ヒョンデi30 N TCR)とともに、表彰台の真ん中に登壇する結果となった。
一方でランキング2位だったGRMのコックスは、残り2周でルーク・キング(ダッシュスポーツ/ヒョンデi30 N TCR)と絡み、レース後にペナルティを受け総合ランク3位へと陥落。ブラウンにタイトル追撃の1番手を明け渡すことに。
そしてシーズン最終日の日曜は、午前から大雨に濡れ濃い霧の状態に見舞われ、数周のSC先導の後に遅れてレース2のキャンセルが発表される事態に。気象条件が改善したレース3ではオキーフがリードを奪ったものの、ミスを犯して“グリフィンズ・ベンド”でタイヤバリアに接触。アーロン・キャメロン(プジョースポールGRMチーム・バルボリン/プジョー308 TCR)がリードを引き継いでいく。
ベン・バルグワナ(バーソンオートパーツ・レーシング/プジョー308 TCR)のストップでふたたびSCが出動し、リスタート後にはスウィーニー対ブラウンの一騎打ちとなり、最終ラップでチャンピオンの意地を見せたブラウンが大逆転のトップチェッカー。2位にスウィーニーが続き、新型i30セダン投入のバカンが最後の表彰台を獲得した。
そしてタイトル獲得のため「トップ12維持」を掲げたダルベルトは、11位で完走を果たして711ポイントまで伸ばし、最終的に702ポイントまで躍進したブラウンを辛くも抑え、見事に初タイトルを決めてみせた。
「明らかに新しいマシンは僕らより優れていた。ジェイ(ハンソン)は第2世代のアウディで絶対的な速さを示し続け、間違いなくシーズン最速のパッケージだったからね」と、ビハインドを背負いながらの戴冠だったと強調するダルベルト。
「新しいホンダ(量産型11代目シビック)については本当に良い仕上がりだと聞いている。新しいタイプRに関する情報は、発売が近づくにつれて伝えられるだろう。願わくばシーズン当初に間に合わないとしても、可能な限り早いうちに新型TCRの姿を見てみたいね」